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裁判員制度10年 県内248被告に判決

◆辞退率50→70%に

 重大事件の裁判に市民目線を取り入れようと始まった裁判員制度は二十一日、導入から十年を迎えた。静岡県内では三月末までに静岡地裁と浜松、沼津の両支部で二百四十八人の被告に裁判員裁判の判決が言い渡された。選任された裁判員は千八百七十人(補充裁判員四百八十二人を含む)に上る。

 伊東市の干物店で二人を殺害した男(66)や、男性二人を殺害して浜名湖に遺棄した男(35)らには死刑判決が下された。

 裁判員の候補になりながら、仕事や高齢などを理由に辞退する人は全国的に増えている。県内でも導入当初の二〇〇九年に50%だった辞退率は一八年に70・2%まで上昇している。

 裁判を分かりやすくするため、公判前に争点や証拠を絞り込む「公判前整理手続き」の長期化も課題になっている。六年二カ月に及ぶ手続きをへて今月、公判が始まった浜松市東区の歯科医師のケースは例外中の例外としても、平均で〇九年の二カ月に対し、一八年は九カ月に伸びた。

 裁判員と職業裁判官が意見を交わす評議は〇九年の平均約九時間から、約十七時間に増え、裁判員の負担は増している。

(牧野新)

◆無罪率 全国で上昇

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 裁判員制度の施行後、全国の地裁で言い渡された判決をみると、裁判員裁判での無罪の割合(無罪率)が、プロの裁判官による裁判を含めた全体平均を大きく上回り、上昇傾向にあることが最高裁への取材で分かった。

 最高裁によると、裁判員制度が施行された二〇〇九年の無罪率はゼロだったが、翌年、0・13%を記録。その後、0・5〜1・0%未満で推移していたが、一六年に1%、一七年には2%を超え、一八年の速報値でも2%近い高い割合を示している。この間、地裁判決全体の無罪率は0・1〜0・3%未満で推移しており、裁判員裁判での上昇傾向が顕著となっている。

 制度開始後、裁判員裁判で出された無罪判決は今年三月末までの速報値で百四件。内訳で最も多いのは覚せい剤取締法違反罪(未遂含む)の四十件。傷害致死罪二十一件、殺人罪(同)十八件、強盗致傷罪十件と続いた。

 年ごとにみると、覚せい剤取締法違反罪で無罪が多い傾向は変わらないが、一六年以降は強姦(ごうかん)致傷罪、強制性交致傷罪、強盗強制性交罪といった性犯罪を無罪にする判決も出てきた。

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 主な無罪理由をみると、故意を認めない(表(1)一七年六月・名古屋地裁)、正当防衛を認定(表(2)一七年九月・東京地裁)、責任能力を認めない(表(3)一九年三月・金沢地裁)などだった。

 千葉地裁などで約八十件の裁判員裁判の裁判長を務め、覚せい剤取締法違反罪に無罪判決を出したこともある元判事の稗田雅洋・早稲田大大学院法務研究科教授は「裁判官だけでは考え方が似通うことが多いが、裁判員が入ることで判決の幅が広がった。裁判員を交えることで(無罪も含めた)多面的な見方ができている」と話した。

◆無罪率上昇 市民の感覚、反映は

 プロの裁判官よりも裁判員による裁判は無罪率が高い−。制度開始から十年、刑事裁判に“市民感覚”を反映した結果ともいえるが、今年三月、強制性交致傷罪に問われた男性被告に静岡地裁浜松支部が出した無罪判決では「市民感覚からかけ離れている」との批判が噴出した。制度の理念は形骸化しているのだろうか。

 浜松支部の裁判では、起訴された外国籍の男性の行為を「暴行」とし、被害女性は「精神的な理由で抵抗できなかった」と認定したが、男性の故意は証明できないとして無罪とした。二〇一七年の刑法改正で強姦(ごうかん)致傷罪から名称が変わった強制性交致傷罪としては全国初とみられる無罪の判断で、インターネット上では「一般の感覚ではない」「裁判員裁判が怖くなった」などの怒りの声であふれた。

 こうした声に、裁判員経験者の心中は複雑だ。一一年に強盗致傷事件の裁判に参加した東京都の高橋博信さん(57)は「国民の代表という意識で判断した」と語り、個人の感情を最優先できない心理を説明。別の事件に携わった四十代女性も「有罪か無罪かはあくまで公判で出た証拠で判断した。感情に引っ張られないようにと意識した」と話す。

 一方、臨床心理士の男性(40)は「冷静な判断が求められるが、被害者の話を聞くと心を揺さぶられた」と自らの経験を重ね、浜松支部裁判の裁判員の苦悩を思いやった。

裁判員制度の10年を振り返る中央大大学院法務研究科の井田良教授=東京都新宿区で

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 「魂の殺人」とも呼ばれる性犯罪。中央大大学院法務研究科の井田良教授(刑法)は「数ある犯罪の中でも無罪を下す裁判員の心の負担は大きい。(浜松支部での無罪判決でも)相当な葛藤があっただろうが、裁判員が裁判官以上に推定無罪の原則とまじめに向き合った表れではないか」と語る。

 元来、性犯罪は密室で行われることが多い。刑法は強制わいせつ罪や強制性交罪の成立要件として「暴行または脅迫」が必要と定めるが、被害者の証言以外で立証するのは容易ではない。要件は一七年の刑法改正時も維持されたが、有識者検討会のメンバーだった井田教授は「冤罪(えんざい)を防ぐために重要な要件だ」とする。

 その上で、性犯罪での裁判員裁判の特徴として「客観証拠が示せれば、重い量刑を選んでいる。判断全体をみれば国民の思いは反映されている」と分析する。

 最高裁が十五日に公表した報告書によると、裁判員制度の開始前、準強制を含む強制性交(旧強姦)致死傷罪の量刑では「懲役五年以下」が最多だったが、裁判員裁判では「懲役七年以下」になった。報告書は、供述調書など捜査段階の“書類”だけでなく、証人尋問をはじめ公判での内容が重視されるようになった結果、としている。

 井田教授は「検察官の判断の正しさを書類で確認するだけというのが日本の裁判だったが、裁判員に選ばれた国民に負荷を掛けることで脱却し始めている」と指摘した。

◆浜松支部の無罪判決例

 磐田市のコンビニ駐車場で昨年、二十代女性をナンパして乱暴し、口にけがを負わせたとして、外国籍の男性被告(45)が強制性交致傷罪で起訴された。裁判員裁判で審理され、静岡地裁浜松支部は三月十九日、無罪を言い渡した。

 山田直之裁判長は判決理由で「女性が嫌がっているとは思わなかった」とする男性の供述などから「故意が認められない」とした。検察側は控訴せず、無罪が確定した。

(鈴木凜平)

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