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極め人

COP10助言役 香坂玲さん 人類のヒント守る

◆自然と共存 里山広がる

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 二〇一〇年、環境の国際的な専門家や政府関係者が名古屋市に集い、あらゆる生き物が生存し続けられるための「愛知目標(ターゲット)」を採択した。当時は画期的な成果とされたが、二〇年に期限が迫る目標の達成は不可能だ。生物多様性条約事務局に勤務歴があり、日本側の助言役だった香坂玲・名古屋大大学院教授(44)=藤枝市出身=はいま、何を思うのか。

 −名古屋市で開かれた生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)から間もなく九年。そもそも、生物多様性とは何か、なぜ大切なのか。

 食物連鎖が分かりやすいが、生き物には関係性、つながりがある。もちろん、人間もその網の目の中にいる。世界中に七百万〜八百万種の動植物がいるとされ、人類が未発見の種も多いが、その25%が絶滅の危機にひんしている。

 生物資源の観点では漢方薬がそう。人間が思いもよらない形や、天変地異に適用する種もいて、人類のヒントになる。果物がなるのはミツバチが受粉してくれるおかげ。ミツバチが絶滅したらどうなるか。いまは人類に役に立たない種も、将来は使えるかもしれない。絶滅させてしまえば可能性を奪うことになる。

 −愛知ターゲットは二〇年までに種の絶滅を防ぎ、生息地の消失速度を半減することなどを約束した。世界の科学者でつくる「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」は今年、ターゲットは達成できないとの報告書をまとめた。

 途上国の乱開発は相変わらずやまなかったし、先進国では逆に林業や農業が廃れている。日本の里山のように、人と動植物が共存してきた環境が維持できなくなり、サシバやゲンゴロウのように生物多様性が失われることもある。

生物多様性について語る香坂玲教授=名古屋市千種区の名古屋大で

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 −愛知の冠がついた国際目標を達成できないことは愛知や日本のイメージダウンか。

 そうは思わない。愛知(AICHI)は母音が二つ続き、海外の人にはすごく言いにくい。COP10以降、環境の専門家は普通に「愛知」と口にする。

 COP10は日本が議長国となり、生物多様性の損失を食い止めるという国際目標を打ち立てることに初めて成功した。「愛知」や「名古屋」はすごく印象がいいし、知名度が高い。会議そのものも秩序立って、きちっと仕切ってくれたと。

 日本が発した人と自然の持続可能なモデル「里山イニシアティブ」は、途上国を中心に広がった。生物多様性に配慮しない企業は投資対象から外す動きも国内外にある。有機農業は欧州では生産も消費も全体の10%を超えた。生物多様性に適した生産活動と経済が両立しつつある。

 −二〇一五年国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」と愛知ターゲットの関連は。

 SDGsは既にあった愛知ターゲットを取り込んだ。貧困やジェンダー、教育など、いくつかある項目の一つとして生物多様性は愛知ターゲットがそのままSDGsになった。ほかは三〇年目標だが、愛知ターゲットだけ二〇年目標、いち早く期限がやってくる。

 −二〇年秋に中国でCOP15がある。

 ポスト愛知ターゲットを話し合う場になる。長期的な大目標に向け各国が励むのか、パリ協定のように国ごとの目標値を設定して達成を義務付けるのか。愛知ターゲットは大きな意義を残した。

 −海外の滞在歴が長い。

 大学の教授に勧められ、ハンガリーで働き、奨学金をもらって英国で修士、ドイツで博士をとった。帰国したら就職氷河期で、就活シーズンも終わっていたから、カナダへ行った。今は若者がリスクをとりたがらない。能力ではなく、意欲の二極化が進んでいると感じる。実際に行ってみないと何事も分からないし、ネット情報では大事なことは見えてこない。

 −静岡の思い出は。

 藤枝で過ごしたのは六歳までだけど、今の自分につながっている。川や海で遊んだり、山に登ったり。温暖で、豊かな自然の中で過ごした。四人兄弟の三男。親にかまってもらえない分、近所のおばちゃんたちが懇ろに面倒を見てくれた。(認知症で)顔も分からなくなったようだけど、今でも時々、訪ねる。

(聞き手・豊田雄二郎)

 こうさか・りょう 1975年6月、藤枝市生まれ。東京大農学部卒。中東欧地域環境センター(ハンガリー)を経て、国連環境計画生物多様性条約事務局(カナダ・モントリオール)に勤務。2008年に帰国し、COP10支援実行委アドバイザーを務める。専門は環境政策論、自然資源管理論、林政学。名古屋市千種区在住。

 

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