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「リング」や「らせん」小説家 鈴木光司さん 先入観徹底的に破壊

◆子育て体験から着想

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 「リング」「らせん」など書き下ろしたホラー小説が映画化され、ファンを魅了する小説家鈴木光司さん(62)=浜松市出身。シリーズの原点「リング」の着想には子育ての体験と親友の存在があった。還暦を過ぎた今、若い世代に向けて、本を読み、ものを書くことの大切さを熱く語った。

 −五月二十四日に公開され、話題を集めた原作映画「貞子」の評価は。

 僕は映画製作者に「なるべく貞子を出すな」と言っている。米国版のシリーズもそう。言わないと、もっと出てしまう。井戸だけを映し、何かが出てくる物語、背景をつくっておく。すると、観客の想像力の中で出てくる。これが一番怖い。今回の映画も、まだ出てくるのが多いかなと。

 −ネタをどう探すのか。

 小説は、普通の人が気付かないことを奥深く書かなければ意味がない。寄り添わず、徹底的に破壊することが大事。破壊するのは「これはこういうこと」と信じている固定観念と先入観。

 リングはホラーを書いたつもりはなく、自分にとって一番怖いことを考えた。妻と赤ちゃんが映像を見てしまい、一週間後に死が訪れる設定。書いていて次の展開に詰まっている時、たまたま二歳の長女がビデオテープを持って来て、ポンと置いてどこかに行った。「そうだ。ビデオの映像を見たことにしよう」と。僕にとって一番怖いことは妻と娘たちが失われること。リングのストーリーは単なる偶然で、当時の家族状況そのままです。

 −なぜ作家に。

 小学五、六年の時、日記を毎日書く宿題があり、僕は代わりに小説を書いた。基本はそこにある。先生は主語と述語が成り立っていないとか、赤で添削してくれた。子どもの時から、先生の受けがいい文章を書くような忖度(そんたく)をしてはいけない。

 −鈴木康友浜松市長と同じクラスだったとか。

 小五の時に転校してきた彼は政治家志望で、日記には時事問題などを挙げた。よく張り合い、中学、高校、大学も同じだった。大学時代、寺の離れにあった彼の下宿で、窓ガラスを開けると墓石と古びた井戸が見えた。即興で「井戸に若く美しい女性が投げ込まれ、殺された。霊が一週間後に井戸から出てくる」という怖い話をした。彼の慌てぶりを見て、大学生が作り話を簡単に信じると思い、リングの発端になった。

 僕は小説家になろうと慶応大の仏文科に進み、卒業後、就職しなかった。奥さんは高校の先生。子どもができ、時間の自由が利く僕が子育てを始めた。小説家の道が閉ざされる恐怖もあったが、逆に小説が進歩し、書ける枚数も増えていった。子育ての体験がなければ、リングを書けていたかどうか分からない。

 −作家を目指す若者にアドバイスを。

 今は大きな賞を取っても食えないし、勧められない。でも、小説は読んでほしい。映画は受け身的に与えられるもの。文字を介すと、その世界を自分の想像力で作り上げないといけない。読みながら想像力を働かせることで、人間を豊かにする。

 −文章を書く利点は。

 例えば、永山則夫元死刑囚が「無知の涙」を書いた。四人を射殺し、死刑が執行されるまで勉強した。小説まで書くようになり、自分がどんなに無知で、どんなにひどい罪を犯したかを悟った。本を読み、論理的な文章を書くことで何が悪いのか、何が善なのか分かってくる。

 −故郷・浜松への思いを。

 浜松で生まれ、いい先生、いい友達に恵まれ、鈴木康友という親友と切磋琢磨(せっさたくま)した。僕は職業作家として成り立っており、「本当に運が良かったな」と思えるその基本が浜松にあると実感している。

(聞き手・原一文)

 すずき・こうじ 1957年5月、浜松市生まれ。浜松北高、慶応大卒。90年、第2回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞となった「楽園」でデビュー。2人の娘を育てながら書いたホラー小説「リング」「らせん」「ループ」の3部作がベストセラーとなり、日本、米国、韓国で映画化された。6月6日には1890年に和歌山県沖で起きたエルトゥールル号遭難事故を題材にした長編小説「ブルーアウト」(小学館文庫)の文庫本が発売された。趣味ではヨット、バイク、格闘技、筋トレなどを楽しむ。東京都在住。

 

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