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極め人

SPAC芸術総監督 宮城聰さん 「異質」超えて輝け

◆静岡発 世界とつながる

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 仏芸術文化勲章を受章するなど静岡発の演劇が世界で認められ、静岡に帰ってくる。静岡県舞台芸術センター(SPAC)芸術総監督の演出家宮城聰さん(60)は、「自分たちは東京を経由しないで直接世界とつながっている、と静岡の人に自信、野心を持ってもらえたら」と話す。昨秋、パリの国立劇場が初めて日本の劇団にシーズン開幕作を頼んで初演した舞台「顕(あらわ)れ」の凱旋(がいせん)公演が、今年のSPACの幕開けだ。

 −「顕れ」も連日、県内の中高生を無料招待した。二〇〇七年の就任後、鑑賞事業に力を入れている。

 どの演目も常に、鑑賞事業があって一般公演もくっついているという形に逆転させた。メインが中高生。年間三万五千人が目標で、実現すれば静岡の中高生は在学中に一度はSPACで観劇できる計算です。

 人と違うことを考える面白い子は、周囲から浮いて生きづらさを感じ、卒業後は東京へ行っちゃう。劇場では俳優や裏方など親や先生と全く種類の違うタイプの大人と出会う。「いろんな人が静岡にいる。こんな人生もあるんだ」と思ってくれると、今まで東京に吸い取られていた、地域の宝となる面白い人材もとどまってくれるんじゃないか。

 −高校時代、孤独であることがつらかったとか。

 誰も僕のことを分かってくれない、と。でも、演劇を見て何百年も前から人は孤独で苦しんでいたことを知った。孤独を治す薬はない。中ぶらりんのまま持ちこたえるしかないと学んだ。「『分からない』ことに耐える力、孤独に向き合う力」と言っていますが、これが人を成長させ、豊かにするんです。今の世の中、何もかも分かりやすく作られている。芝居を見ると「面白いところもあったけど、つまり何だったの?」って感じですよね。そういう体験を二時間でもしてもらう。この子たちが育てば、いろんなアクティビティーが起こってすてきな静岡になっていく。

 −「劇場は世界を見る窓」と言う。春の「ふじのくに●せかい演劇祭」は、世界と静岡をつないでいる。

 世界には貧困や戦乱があると情報は知っているが、演劇祭ではそこで暮らす人の肉体が目の前に来る。そこでやっと、人間の多様性を実感できる。「こんなに違うんだ。世界は広い」と感じれば、自分が周囲からちょっとずれていたくらいでは大丈夫、と思える。異質性を楽しむのです。一方、言葉も肉体も大きく隔たっている中で、それを超えた一瞬分かり合うような輝きもある。人間は大きな差異があるけれど、それでも分かり合えるかもしれないと希望がともります。

 −一昨年のふじのくに●せかい演劇祭の演目「アンティゴネ」は、その後フランス・アビニョン演劇祭オープニングを飾った。

 この辺でやっていたことがそのまま世界で通用している。一番面白いものは東京にある、東京から見たら自分たちのはしょぼいのかな、という屈折を取っ払う。自分たちは選んでこの街に住んでいるんだぜ、と。

 −「この世界には演劇が必要だ」と証明できるかもと思って、静岡に来たそうですね。

 それは僕が生きていくために必要な仮説なんです。演劇を見て初めて世界への絶望が癒やされる、こんな人こそ芝居が必要。静岡ではこちらから積極的に手を伸ばさないとお客は増えないので、演劇に何の関心もなかった人を含めいろんな人に出会える。芝居が必要だという人に、出会える可能性があるんです。

(聞き手・五十住和樹)

文中の●は、上が「→」下が「←」

 みやぎ・さとし 1959年2月、東京都生まれ。中学1年の時、3年先輩の野田秀樹さん(劇作家)の校内での舞台を見て演劇に興味を持つ。東京大で小田島雄志さん(演劇評論家)らから演劇論を学び、90年に「ク・ナウカ」を旗揚げ、国際的な公演活動を展開する。初代の鈴木忠志さん(静岡市清水区出身)を継いで2007年にSPAC芸術総監督に就任。17年度芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)受賞。4月にはフランスの芸術文化勲章シュバリエを受章する。

 

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