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静岡連載

浜松夜話 第8話 その男、飛び込め新天地

かつては飛び込みの選手として活躍した店主の山内正夫さん=浜松市中区田町で

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 いつの間にか梅雨は明け、本格的な夏である。七月末、浜松市から三重県伊賀市に転勤することになった後輩のK(25)から「最後に飲みませんか」と連絡が来た。「最後とか寂しいこと言うなよ」。浜松市中区田町の居酒屋「稲作」でもてなした。

 平日だが常連客でにぎわっている。寡聞な私が知る限り、街中で最も歴史ある店ではなかろうか。店主で二代目の山内正夫さん(80)によると、戦前の一九三七年に千歳町で開店した。戦争を挟み、四九年に田町で仕切り直し、九〇年から現在の店になった。

 お薦めは、御前崎の漁港から仕入れた新鮮な魚料理。焼き鳥もうまい。冬にはおでんも好評だ。

 われわれ二人は焼き鳥に、唐揚げ、手羽先を頼み、ビールで乾杯する。座敷からカウンターから、至る所で注文の声。額に汗する山内さんだが、テレビのナイター中継でひいきの巨人の攻撃が盛り上がるたび、手が少し止まる。今宵の相手は広島だが、中日新聞社員としては巨人は永遠の仇敵である。負ければいいのに。

 Kはこれから忍者の里・伊賀で記者として羽ばたく。忍者に襲われないか不安なのか、いろいろアドバイスを求めてくるが、私だって日々、五里霧中、暗中模索なのだ。あんまり偉そうなことは言えない。「まあ、いつか一緒に仕事ができたらいいな」と手羽先を頬張る。

 野球中継が騒がしくなったと思ったら、劣勢だった巨人が七回で1点差まで詰め寄っていた。山内さんが「よしっ!」と右手に握りこぶしをつくった。

 実は、ただの野球好きのおやじではない。浜松商や中央大で水泳の飛びこみ選手として国体にも出場したアスリートだった。その後は地元浜松で後進の指導に専念し、全国で初めて小学生の飛び込みの大会を創設した立役者でもある。

 新たな新天地に“飛びこむ”Kへのアドバイス。浜松の飛び込み界のレジェンドに聞いてみた。「一生懸命やれば、人生、何とかなりますよ。後ろを振り返らずね」。そういえば、なぜか注文したのは鳥料理ばかり。結局前へ、飛ぶしかないってことだな。 

【今回の出費 二人で約六千円】

(鎌倉優太)

 

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