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静岡連載

浜松夜話 第7話 ワイン仲間 上下なし

アットホームな雰囲気でワインを楽しめる「くろねこ亭」=浜松市中区で

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 県西部で大きな落雷が鳴り響いた六月中旬のある日。「ゴロゴロ」と鳴るのは雷鳴なのか、「めちゃ腹減った」という同僚O記者の悲鳴なのか。急に飲み会が中止になったOだが、酒への未練は捨てきれなかったようで、急きょ私に声を掛けてきた。よりにもよって、こんな雷雨の日に…。

 繁華街の喧騒(けんそう)から少し離れた中区神明町の交差点近く。野良猫でも歩いていそうな細い路地。神明坂横丁とも呼ばれるその路地の角にポツンと、ともった明かりが、横なぐりの雨に打たれる二人に優しく映る。ワイン食堂「くろねこ亭」。その店の名だ。

 名古屋や浜松で計十四年飲食業に携わっていたカズさん(40)は、少し的場浩司に似ている気がする。千秋似の美人、わかなさん(32)と夫婦で営んでいる。店は約三十年、この地に根付いており、カズさんは三代目。二代目が手放そうとしていたタイミングで、二年半前に引き継いだ。

 壁には初代、二代目の写真が飾ってある。初代の写真はモノクロで、オノ・ヨーコに似た女性がマイクを片手に歌っている。カズさんによると、「くろねこ亭」の由来は初代が昨年、亡くなってしまい分からずじまいらしい。

店内に飾られた初代(左)と2代目店主の写真

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 店主は変われど、店のコンセプトはずっと変わらない。料理を食べてワインを片手に客が語り合う−。カウンターはLの字で七席。横一列でない分、互いの顔が見えて距離感が近い。常連は多いが、借りてきた猫になる必要はない。

 私にこの店を教えてくれた元ラガーマンの先輩記者は言う。「昔、あの店で偉そうにしていたおっさんとけんかしたんだよ。あの店に身分はないんだよ。みんな平等なんだ」。確かに、カウンターに座れば猫もしゃくしもみな同じ。小者の自分はけんかする度胸はないけれど。

 「何を食べてもおいしいよ」。かつて元ラガーマンがけんかしたカウンターに座ると、隣の常連が親切に教えてくれた。おすすめのキャベツとアンチョビーの炒め物とラム肉の串焼きを頼む。うまい。そして、ワインに合う。

 そのうち、国民の家一軒一軒にシールを貼る会社の記者Sがやってきた。店に貼りに来たのではない。偶然でもない。私が呼んだからだ。黙々とカズさんは料理を作り、わかなさんがばか話に相づちを打つ。調子よく話し込んでしまい、注文が止まらない。

 高級な店ではないのだが、いかんせん、ワインを飲みすぎた。周りの常連がみな帰っても、私たち三人は深夜まで管巻いていた。伝票を見たら、酔いが覚める数字。財布から去って行く福沢諭吉を見つめながら、かの名言を思い出す。「天は人の上に人を造らず」。この店の雰囲気を指している。

 【今回の出費 二人で約一万五千円】

(鎌倉優太)

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