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静岡連載

浜松夜話 第5話 地下に葉巻のロミオ

お酒をつぐ宮口さん(右)=浜松市中区鍛冶町の「SMOKE」で

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 もはや、平家にあらずんば人にあらず。もとい、禁煙者にあらずんば…とは言い過ぎだろうか。ある生命保険会社は、二〇二〇年春の新卒採用から、喫煙者を採用しないと決めた。東京五輪・パラリンピックに向けた機運もあるのだろう。ただ、平家は壇ノ浦で滅んだが、喫煙者にはどう見繕っても勝ち目はない。

 そんな世相はどこへやら。今日の舞台、バー「SMOKE(スモーク)」は、浜松市中区の鍛冶町通りで赤い看板を見つけ、地下へ降りたところにある。いわば、残党たちの社交場。

 浜松でも珍しい地下のバーだから、店内はもちろん窓がない。黄色く染まった壁に飾られたポスターや額縁。映画や酒に関する本がところ狭しと並んでいる。

 マスターの宮口さん(52)は二月に心筋梗塞で、さんずの川を渡りかけた末に、二週間ほど入院した。こんな空間に四六時中いたら、さもありなんな話だが、「たばこはやめて葉巻にした」「チャーチルは葉巻を吸って九十歳まで生きた」と反省していない。「ノースモーク・ノーライフ」を地で行っている。

 隣にいた五十代とおぼしき男性客が語る。「お酒を飲まずに葉巻を吸うのと、飲んで吸うのは全然違うんですよ」。ふーん、そういうもんなのか。葉巻なんて、ハットを斜めにかぶったマフィアのドンが、猫をめでながら吸うものだろう。猫は好きだが、平社員の私でも吸っていいのか。戸惑ったが、ものは試しだ。一本もらうことに。

 「軽いのがいいだろ?」と宮口さん。店の奥から取り出してきたのは、「ロメオyジュリエッタ」というキューバ産の銘柄。慣れていないせいか、火の付け方が悪いのか。煙が立ち上っては数分後にすぐ消える。

 マスターによると、キューバの工場では葉巻職人の退屈防止と知識向上のため、物語を朗読する係がいるらしい。人気の朗読の一つが「ロミオとジュリエット」。で、この名前になったとか。一万キロ以上離れた社会主義の国。そこで、丁寧に葉巻を巻いてくれるキューバ人を夢想する…。

 「まあでも実際、本当にちゃんと巻いてるかどうか、分かんねえよなあ」。元も子もないようなことを、マスターが言うんだ。

【今回の出費3000円くらい】

(鎌倉優太)

 

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