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静岡連載

浜松夜話 第2話 そこにあるから飲む

登山好きの鈴木宏明バーテンダー。店内には250種類のウイスキーが並ぶ=浜松市中区の「BARTHINK」で

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 今宵(こよい)の行き先、浜松市中区板屋町の「BAR THINK」にはBGMが一切ない。

 「いらっしゃいませ」。落ち着いているが、よく通る声。オールバックに凜(りん)とした顔立ちの鈴木宏明さん(42)だ。見渡すと、店内には二十〜三十代くらいの女性常連客が三人いるが、何か、よからぬ、たくらみでもしているのかと思うほど話し声が聞こえない。

 ドアを開けてすぐ、楽譜台に置かれた案内の紙は実はこの店のコンセプト。

 「JOHN CAGE 4’33”」

 音楽家ジョン・ケージの「四分三十三秒」は全楽章が無音の曲だ。つまり、「店内ではお静かに」というお願いである。常連客たちもこの案内を読んで理解している。ってほんとかな。これ、ほとんど伝わってないっすよ。鈴木さん…。

 ともかく、この店、別にひそひそ声で話せってわけじゃない。ただ、静かに酒と会話を楽しめばいいだけだ。

 店のオープンは一九八八年。現在、沖縄県宮古島市で同名のバーを経営する高田俊彦さん(61)が「本格的なバーを浜松に」との思いで開店。弟子の鈴木さんが二〇〇一年に引き継いだ。

 高田さんとは昨年、開店三十周年記念パーティーでお会いした。浅黒い肌に白髪が似合うダンディーなご老輩。宮古島ではバーテンダーと漁師の二刀流。日中はエビやら魚やら捕まえて夜はシェーカーを振る。

 師匠は海の人だが、鈴木さんは山の人。店の奥から持ってきた登山に関する本を大量にカウンターに置いて、少年のような笑顔で語り出す。山で飲むウイスキーはまた格別らしい。

 「今年は北岳(標高三、一九三メートル、山梨県)に登るのが目標なんですよ」

 「それって日本で二番目に高い山じゃないですか」

 「標高は高いけど、技術的にはそんなに難しくないんですよ」

 先月、十分の一くらいの高さの湖西連峰でへばった私には、ちょっと理解できない領域。

 浜松でも随一、鈴木さんの背後に並ぶ、二百五十種類のウイスキーを眺めながら、あの名言が浮かんだ。

 なぜ、酒を飲むのか。そこに、酒があるから−。

 生意気だ。エベレストのように高い酒(山)にでも挑んでから言ってみろ。ジョージ・マロリーの声が聞こえた、気がしたが、グラスに口を付けたら、すぐ忘れた。【今回の出費3500円】

 追伸。会社にファクスくれた南区の内山さん。連絡先が分からないので、もう一度、ファクス、お願いします。

(鎌倉優太)

 連載へのご意見、ご感想、「うちへ来い」というお誘いはファクス=053(421)5218、電子メール=tkahod11@chunichi.co.jp

 

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