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静岡経済 特集

信念のピアノ 誕生20年(上) 巨匠ほれた職人技

◆部品一つ 熟練が時間

ピアニストとしての活動を再開するきっかけとなった「SK−EX」を弾くミハイル・プレトニョフ氏=東京都内で(河合楽器製作所提供)

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 河合楽器製作所のグランドピアノ「Shigeru Kawai(シゲルカワイ)」。熟練の職人の手が生む音は、独特な営業手法で世界に広まり、高い評価を受けている。二代目社長の故・河合滋の信念が詰まった「SK」の二十年を、製造や販売に携わる社員の声から振り返る。

 六月中旬、東京・渋谷の音楽ホール。三階席まで埋まった聴衆の視線は、舞台上のミハイル・プレトニョフ(62)に注がれていた。

 二十一歳でチャイコフスキー国際コンクールの頂点に輝き、今や「巨匠」と称されるピアニスト。しなやかな指先が鍵盤の上を駆け巡るたび、大屋根を開けた漆黒の「SK−EX」が繊細な旋律を紡いだ。

 二〇〇六年。「弾くべき楽器がない」と突然、ピアニストからの引退を宣言したプレトニョフ。七年後、再び舞台へ戻ったのは、モスクワ音楽院に置かれていた、このSKの旗艦との出合いがきっかけだった。

 河合楽器の竜洋工場(磐田市)。「世界一のピアノ」を目指した創業者・河合小市の遺志を継ぎ、滋が建てたこの工場の一角に、SKを専門に生産する「シゲルカワイピアノ研究所」がある。所長の中尾豊(61)以下、この道三十年以上の熟練の職人がそろう。

出荷前のフルコンサートピアノ「SK−EX」を最終点検するシゲルカワイピアノ研究所の中尾豊所長=磐田市の河合楽器製作所竜洋工場で

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 研究所の象徴が、弦を打つハンマーやアクションといった部品を手作りで生産する「原器工程」。かつて長さの基準として用いられた「メートル原器」になぞらえ、カワイのピアノの原点を常に思い起こせるようにと、滋が特に力を入れて整備した部門だ。

 量産モデルとの違いを、中尾は「製作にかける時間」と即答する。例えば低音を担う弦「巻線」の加工。量産は機械を使うが、SKは手指でワイヤに銅線を巻き付ける。引っ張りすぎず、たわませすぎず。巧みな力加減と正確さが、量産とは格段に違う響きを生む。

 音を共鳴させる「響板」の乾燥もそう。木は乾けば乾くほど音の響きや伸びが良くなるため、最低でも五年以上は寝かせる。ハンマーの動きを均一にして音をそろえる「整音」など、最終的な仕上げを許されるのは、調律師資格を持つ社員の中でも特に優れたMPA(マスター・ピアノ・アーティザン)のみだ。

 「SKなしでは演奏できない。私にはカワイが必要だ」

 渋谷での公演後、プレトニョフはあらためて関係者に愛着を語った。

 「手作りが最良とは限らないが、手作りでなければ正しい製品は作れない」。滋の言葉を胸に刻み、中尾はきょうも現場に立つ。(文中敬称略)

(鈴木啓紀)

 <Shigeru Kawai(シゲルカワイ)> 河合楽器製作所が1999年9月に発売したグランドピアノの最上位シリーズ。商品名は開発を指示した河合滋会長(当時)に由来する。現在5機種が市販され、価格は税別275万〜660万円。非売品でフルコンサート仕様の「SK−EX」は多くの競技会で公式ピアノに採用され、昨年11月の浜松国際ピアノコンクールでは、トルコのジャン・チャクムルさんが使用して優勝した。

 

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