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認知症の人が「接客」「配達」「店番」 広がる「働く場」づくり

客に料理を運ぶ珎道千代子さん(右)=東京都江戸川区で

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 認知症の人が自分のペースで働ける「職場」づくりが、介護の現場などで広がっている。もの忘れなどの症状があっても、ちょっとしたサポートで、店での接客やダイレクトメールの配達などで活躍。認知症の人に社会での役割を実感してもらうとともに、「何もできない」といった偏見をなくすねらいもある。

 「何か、スポーツをしてますか」

 六月下旬、東京都江戸川区の貸部屋に開設された二日間限定の飲食店「定食屋きまぐれ」。エプロン姿の女性四人が楽しそうに客と話し、料理を運んでいた。

 四人は近隣のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などで暮らす七十〜八十六歳。皆、認知症か、軽い認知障害がある。この日、店の有償ボランティアとして二時間で計約三十人を接客したほか、後片付けもし、一人二千円の報酬を得た。認知症で、要介護1の珎道(ちんどう)千代子さん(70)は「皆さんと話せるのは楽しい。またやりたい」と笑顔で話した。

 きまぐれは、地元の介護事業所などの有志が「認知症になっても、地域で楽しく生きられるように」と今年二月から始め、三回目。配膳を担う認知症の人が行動を忘れてしまうようなときは、スタッフがさりげなくテーブルに誘導。注文を忘れても、スタッフと一緒にもう一度聞きに行く。店長役の看護師関口優樹(ゆうき)さん(24)は「認知症でもサポートをすれば、できることはたくさんある」と話す。

 人手不足の中、認知症の高齢者を戦力として生かしながら、地域の理解を深める取り組みも。ヤマト運輸(東京)は今年から福岡県大牟田市などで地元の介護事業所に委託し、認知症の高齢者にダイレクトメールの配達を依頼。介護事業所の職員が付き添い、歩いて回る。委託料は一通当たり、二十三〜二十五円。全額が高齢者に入る。

 委託先の一つで、大牟田市の小規模多機能型居宅介護施設「てつお」では、利用者の女性(89)一人が週一回、配達を担当。六〜二十通ほどを配る。ヤマト運輸によると、トラックで行くのが難しい細い道沿いの配達先などを依頼し、「ドライバーの負担も減り、助かっている」という。

 「てつお」の管理者、浦幸寛(うらゆきひろ)さん(35)によると、配達を通じ、地域の人に顔を覚えてもらい、最近は声も掛けられるように。仮に、一人で道に迷うようなことがあっても、「顔の見える関係があれば、助けてもらえる」と話す。

 「働く場」付きのサ高住もある。住宅建設などを手掛ける「シルバーウッド」(千葉県浦安市)は、同県内などで運営する「銀木犀(ぎんもくせい)」の全十施設に駄菓子屋を併設。認知症の入居者が無報酬で店番をし、来店する地域の子どもらに応対している。豚しゃぶレストランを併設した施設もあり、九月から認知症の人が調理や接客をする予定という。

 企業や自治体、NPOなどの関係者らによる一般社団法人「認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ」などは二〇一七年に厚生労働省の調査研究事業で小冊子「認知症の人の『はたらく』のススメ」を作成。先進的な事例をまとめた。

 この中では、当事者として認知症の相談に乗るといった認知症の人だからできることや、保育園の子どもたちと一緒に過ごすなど、「その場にいること自体が価値がある」ことも、「働く」と位置付ける。共同代表理事の岡田誠さん(57)は「働くことを通じ、『認知症になったら、おしまい』という社会の固定概念を変えられる」と話す。

 (五十住和樹)

 

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