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<母乳信仰 液体ミルクから考える> (上)ミルクは罪か

乳児用の液体ミルク。どちらも「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養」と記されている

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 「文章…要る? 私が母乳出なくてミルク買う人だったらなんか嫌だな」

 3月から、国内で店頭に並び始めた乳児用液体ミルク。「江崎グリコ」と「明治」の2社が販売しているが、いずれの商品にも記されている一文がある。

 「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」

 敏感に反応したのが、短文投稿サイト「ツイッターー」内の母親たちだ。「要る?」という問い掛けに、共感を示す「いいね」は、あっという間に7000にも。「その文章、地味にささります」「母乳出てたら買わないので、そう言われましても」…。液体ミルク発売前、粉ミルクも使って子育てをした人の投稿も相次いだ。

 液体ミルクはそもそも、母乳が足りない時などに飲ませる乳製品だ。なのに、なぜこの一文があるのか。

 背景には、世界保健機関(WHO)が母乳育児を勧めていることがある。WHOなどが設置した食品の国際規格をつくる政府間組織は、粉ミルクや液体ミルクの包装に「母乳がベストフード」などの文言を入れるよう規定。それを受け、日本では、消費者庁が表示を義務付けている。

 赤ちゃんの免疫力を高めたり母親の産後の回復を促したりと、母乳にさまざまな効果があるのは確かだ。日本では「母乳信仰」が年々強まる。厚生労働省が2015年度に行った調査によると、母乳だけで育てたという人は生後1カ月で51%、3カ月で55%。調査は1985年度から10年ごとに実施しているが、5割を超えたのは初めてだった。

 一方、こうした風潮に追いつめられる母親も多い。「娘に申し訳なくて何度も泣いた」と話す静岡県の女性(34)。5年前、第一子の長女を産んだ時のことだ。妊娠中は、母乳だけを与える「完全母乳(完母)」を望んだが、思うように出なかった。長女の体重も増えない。同じ病院で同時期に産んだ女性は出産経験のある人が多く、出ないのは初産の自分だけ。「胸が張って苦しいといった声が聞こえてくる中、母乳に粉ミルクを足すたび『ごめんね』と心の中でつぶやいた」

 小学生3人を育てる愛知県の女性(38)も第一子の長女出産後、母乳が十分に出ず、激痛に耐えおっぱいマッサージを受けたり、いいと勧められて温かいお茶を一日2リットルも飲んだり。努力はしたが、生後3カ月すぎのある日を境に全く出ないように。粉ミルクに切り替えた途端、気が楽になった。「罪悪感を覚えることなく、母乳かミルクかを選べる雰囲気があれば育児に余裕を持てたのに」と言う。

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 母乳の神聖化が行きすぎた例の一つが、4年前に明らかになったインターネット上での母乳の売買だ。厚労省が「衛生面で危険」と注意を促す事態になった。

 国は今年3月、授乳や離乳の支援に関する医療従事者向けの指針を12年ぶりに改定。粉ミルクを併用しても赤ちゃんが肥満になるリスクは母乳だけの場合と差がないこと、母乳にアレルギー予防の効果はないことなどを盛り込んだ。ネット上でも、さまざまな情報が飛び交う。新指針は、過度な母乳信仰にとらわれた親たちの不安を和らげることを目指している。

 ◇ 

 乳児用の液体ミルクが、解禁されて3カ月余り。なかなか母乳が出ない母親にとっては、従来の粉ミルクと合わせ、子育ての味方だ。一方で、「人工ミルクよりも母乳」といった声は今なお根強い。母親にとって、子どもにとって、最良の選択とは何か。

 (河野紀子)

 

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