トップ > 暮らし・健康 > 暮らし一覧 > 記事

ここから本文

暮らし

<どうする相続> 公正証書の信頼性、火種に

写真

 法律の専門家がかかわることで安全、確実に遺志を残せる「公正証書遺言」。相続を巡る親族間の争いを防げるとして、作成件数が近年増えている。ただ、認知症などで判断力が衰えてから作成されることもあり、本人の死後、「正しい判断や意思を示した遺言なのか」などと争いになる事例も目立ってきた。不利な内容を残された側の遺族にすれば、公正証書遺言の高い信頼性が逆に壁となることもある。

 「都合のいい遺言を書かせた者が勝ちなのか」。東京都江東区の真由さん(35)=仮名=は、本紙生活部に寄せた投稿で「父の後妻に、公正証書遺言を悪用された」と訴えた。

 真由さんが二十代のころ、両親は離婚。父は二〇一二年に再婚した。不動産業を営んでいたが再婚する直前に脳腫瘍と診断され、二年後に六十代半ばで亡くなった。病気になってからは、認知症の症状もあった。

 しかし、後妻から真由さんには病状に関する連絡は一切なく、亡くなったことさえも知らされなかった。父の死亡を真由さんが知ったのは、父が所有していた不動産がすべて後妻名義になったことについて、不動産管理会社から問い合わせがあったからだ。そして、賃貸マンションなど数億円の全財産を後妻に相続させるという公正証書遺言があることが分かった。

 真由さんには、障害がある弟がおり、父はしばしばきょうだいに「一生困らないだけのお金は残す」と言っていたという。

 「父の認知症が進んだ時期に作られ、正しい判断能力はなかった」。真由さんは一五年、「公正証書遺言は無効」と訴えて東京地裁に提訴。しかし、判決は「認知症の症状が出ていたが、遺言を作る能力が常になかったわけではない」と、請求を棄却。控訴審でも判決は覆らず、真由さんらは昨年秋、最高裁に上告受理申し立てをして係争中だ。

 民法では、遺言の内容を理解できる能力がある十五歳以上の人は誰でも遺言を残せる。判断能力が不十分で成年後見制度を利用している人でも、立ち会った二人以上の医師が遺言を残す意思能力があると判断すれば作成できる。遺言を作るのに必要な判断能力は、通常の契約などに必要な水準より、緩やかに解釈されているためだ。

 認知症の人が公正証書遺言を作る時、判断力の有無などは公証人が判定する。日本公証人連合会は「公証人が本人に会って話し、個別事案ごとに本人の真意と意思能力を確かめて作成できるか判断する」と話す。

 一方、真由さんの訴訟で意見書を書いた医師で、認知症の人と家族の会副代表理事の杉山孝博さんは「重度であっても、家族以外の前では普段の状態から想像できないほどしっかりした言動をとることがあるのが認知症の特徴」と指摘。真由さんの父の場合、認知症のことを公証人に伝えておらず、医師でない公証人が、遺言を理解する能力を判断するのは難しかったとみる。

 公正証書遺言はしっかりした手続きを取るだけに、無効とするのは難しい。「社会常識から、あまりに不合理な遺言内容の場合は、そのまま実行するのではなく、当事者間あるいは第三者を交えた場で検討されるべきではないか」と杉山さん。

 今後、認知症の人は増えるとされ、同様の訴訟も増えそうだ。公正証書遺言を作る場合は、後の「争族」の火種とならないよう、公証人に認知症であることを伝えた上で、医師の診断書や本人を撮影した動画なども準備するなど、本人の意思を客観的に証明できる資料をそろえておきたい。

 (砂本紅年)

 <困り事や体験談募集> 相続に関する困り事や体験談を募集します。メールseikatut@tokyo-np.co.jp、ファクス03(3595)6931。件名に「どうする相続」と記入を。

 

この記事を印刷する

中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井 読者の方は中日新聞プラスで豊富な記事を読めます。

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索