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「執念と能天気」プラスに 吉野氏

 試作した電池の性能を調べる電圧計測器。今までの失敗作なら、すぐに「ゼロ」になってしまった電圧計測器の針が、いつまでも高い数値を示し続けていた。「この数値は本当なのか。落ちるな、落ちるな…。やった!」。心の中でガッツポーズ。リチウムイオン電池が誕生した瞬間だった。

 吉野彰さんは京都大で石油化学を学び、旭化成に入社。「世界を相手に勝負しながら企業で研究開発する方がいい」。入社二年目から、新しい技術の種を二年刻みで生み出す探索研究を担当。燃えない断熱材など三つのテーマは失敗し、四つ目に挑んだのがリチウムイオン電池の開発だった。一九八一年にプラスチックの一種「ポリアセチレン」の活用方法を探り始めた。

 ポリアセチレンは電気を通すプラスチックとして当時注目を集め始めており、後に発見者の白川英樹・筑波大名誉教授がノーベル化学賞を受賞している。吉野さんは、「電気が流れるなら、電池の材料になるのでは」とひらめき、ポリアセチレンを電池の負極材料にしようと研究を始めた。

 だが、相手となる正極の材料が見つからなかった。試行錯誤を繰り返し、最後に行き当たったのが「コバルト酸リチウム」だった。

 試作した電池は高い性能を示した。しかし、難題が発生した。ポリアセチレンは原理的に小型化が難しく、代わる材料を探す日々が続いた。胃に穴があきそうな時もあったというが、「まあ何とかなりますわなあ、という能天気さが研究には絶対いる。執念深さと能天気。この二つをどうバランスさせるかが一番のポイント」。似た構造を持つ炭素繊維を使い、八五年に実用的なリチウムイオン電池の開発に成功した。

 当初、電池の用途として想定されたのは家庭用の8ミリビデオカメラ。だがその後、ノートパソコンやスマートフォンと用途は広がった。現在は地球温暖化対策の切り札として電気自動車用でも注目を集めている。

 企業で研究する醍醐味(だいごみ)を「マーケット(市場)を驚かせること。世の中のニーズを見て、みんなが難しく実現できないことに挑んで達成するのが面白い」と語る。

 「当然これから技術が進んでいく。(スマホなどの)モバイル向けから海とか空とか、飛行機飛ばそうとも。わくわくしています」。九日の会見。企業で研究開発の道を究めた吉野さんの人懐っこい笑顔が輝いた。

 (坪井千隼、芦原千晶)

 

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