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知るコレ!

大昔から人の心捉える 秋の夕暮れ

宍道湖(しんじこ)に面(めん)した島根県立美術館(しまねけんりつびじゅつかん)。エントランスロビーや芝生(しばふ)広場からは夕日を楽しむことができる

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 家へ帰る途中、真っ赤な夕日についつい見とれてしまった経験はありませんか。きれいだけれど、どこかものさびしい―。その風景は、何百年も前から和歌や随筆、絵画の題材となってきました。人々の心を捉えるのは、なぜなのでしょうか。(大沢悠)

◇和歌や随筆 絵画の題材に

 白っぽかった太陽が湖面に近づくにつれ、少しずつ赤みを増し、一帯をオレンジ色に染め上げます。10月中旬の夕方、島根県松江市の宍道湖に面した県立美術館の周辺では、50人ほどの観光客らが夕日を眺めていました。写真を撮ったり、変わりゆく風景を静かに目に焼き付けたりして、思い思いに一日の終わりを味わっていました。

 兵庫県から来た会社員の男性(39)は「今まで見た中で一番きれい。街中にいると、建物がない開かれたところで夕日を見ることがない。日が沈んだ後も余韻が残っているところがいい」と湖岸にたたずみ、消えゆく光を堪能していました。

 同美術館から見る夕日は、兵庫県のNPO法人「日本列島夕陽と朝日の郷づくり協会」が選ぶ「日本の夕陽百選」の一つ。「夕日につつまれる美術館」をうたい、今秋は開館20周年記念展「黄昏の絵画たち 近代絵画に描かれた夕日・夕景」を開きました。

 夕暮れの海から船を引き上げる漁師が描かれたクロード・モネの「サン=タドレスの海岸」、聖書の一場面を題材にしたモーリス・ドニの「日没の訪問」、農作業を終えて帰路につく家族を描いた和田英作の「渡頭の夕暮」…。展示作品はいずれも夕景ですが、受ける印象は一枚一枚、違います。

 企画した学芸員の柳原一徳さん(43)は「人はさびしさや切なさ、仕事が終わった安心感など、ひと言では言えない感情を抱きます。過去に思いをはせる人もいれば、次の日に向かう未来を考える人もいる。その相反するものが内在することが魅力ではないでしょうか」と話します。

 展示は巡回し、兵庫県神戸市の小磯記念美術館では16日から来年1月26日まで開催されます。

 ところで、夕日はなぜ、赤く見えるのでしょうか。国立天文台によると、水平線の近くは空気の層が厚いため、光を構成する色のうち青系は拡散され、赤系だけが人の目に届き、赤く見えるそうです。

 また、春は花粉、夏は水蒸気、冬は上空の気流が乱れる影響で、クリアに見えないそうです。気象条件を考えると、赤いきれいな夕日を見るのは、秋が適していると言えそうです。

◇希望と再生の人生重ねる

 秋は夕暮れ 夕日のさして 山の端いと近うなりたるに…

 夕されば 門田の稲葉 おとづれて あしのまろやに 秋風ぞ吹く

 前者は清少納言の随筆「枕草子」、後者は小倉百人一首に選ばれている和歌。平安時代にも、夕日は人の心を捉えていたことがうかがえます。

 元国際日本文化研究センター所長で宗教学者の山折哲雄さん(88)は著書「こころの作法 生への構え、死への構え」の中で「夕焼け信仰」という言葉を登場させ、「どうして落日にこころを動かされるのだろうか。(中略)この世を去って新しく生まれ変わる理想国土のイメージが、落日とその荘厳な輝きに託されていたからではないだろうか」と述べています。

 沈んだ太陽は、翌朝に再び姿を見せます。山折さんは「日本人は芸術的にも宗教的にも暮らしの中でも夕日を大事にしてきた。落日は、希望の光を差し込む、再生という考え方を象徴している」と話します。

 終わりを感じさせるとともに、その先に続く新たな道も照らす夕日。自らの生きざまを重ね合わせるからこそ、千年以上も昔から人々の心を動かしてきたのかもしれません。

「日本の夕陽百選(ゆうひひゃくせん)」に選(えら)ばれている夕日を見に集(あつ)まった観光客(かんこうきゃく)ら。左の建物(たてもの)は島根県立美術館(しまねけんりつびじゅつかん)=いずれも島根県松江(しまねけんまつえ)市で

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