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知るコレ!

専用ケージで親子守る ライチョウ増殖大作戦

◇絶滅から救え あの手この手

ケージから勢いよく飛び出すライチョウの母鳥とひな

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 きょうは山の日です。日本人は古来、山を信仰の対象としてあがめてきました。その象徴が、高山帯にすみ、「神の鳥」とも言われるニホンライチョウです。しかしライチョウはいまや絶滅の危機に。これを救うためにさまざまな取り組みが行われています。名付けて、ライチョウ増殖大作戦―。(宮崎厚志)

 「クークー、クルルルルー!」。5羽のひなをおなかの下で温めている母ライチョウが、高い声で鳴きました。日本第2位の高峰、南アルプスの北岳。標高約2900メートルの高山で行われている環境省による取り組みが、ケージ保護です。

 氷河期から日本の高山の環境に適応して生き残ってきたライチョウ。しかし、この20年間で約半分に減ったとみられ、絶滅危惧1B類に指定されています。

 主な理由は、地球温暖化により高山帯の植生が変化し、生息できる場所が減っていることと、キツネやテンなどひなを襲う動物の生息範囲が広がっていること。今世紀末には絶滅してしまうとの予測もあります。

 そこでケージ保護が4年前に始まりました。ひなが襲われやすく、寒さにも弱いふ化後約1カ月間を、母鳥とともに夜間に専用ケージで保護するのです。昼間は外に出し、人間が見守りながら自由に行動させます。そうすることで、保護が終わった後も高山帯で生き抜くすべを母鳥からしっかり学べます。えさとなる高山植物はケージ内にも用意し、体調も管理します。

 そうして1カ月たつと子鳥は飛べるようになり、生存率が大きく向上。3年目からはわなによる捕食動物の駆除も同時に行い、特に減っていた北岳周辺のなわばりの数は開始時の約3倍に回復しました。ケージで育った鳥同士の繁殖も確認されています。

 ここで疑問が浮かびます。野生なのになぜ人間に導かれ、素直にケージに入るのでしょうか? ライチョウの仲間は北半球の高山や寒冷地に広く生息していますが、海外では狩猟の対象となってきたため、人間を見ると逃げます。しかし世界最南端に分布するニホンライチョウだけは人間を恐れないのです。

 信州大の中村浩志名誉教授(72)によると、日本では「雷鳥」「霊鳥」と書かれるように、特別な存在として大切にされてきたため、人間を敵とみなさないとのこと。これを見た海外の研究者たちは「信じられない」と驚いたそうで、中村名誉教授は「自然への畏敬の念を持つ日本文化の産物」と話します。

◇3家族「移住」計画も検討中

 なわばりを持つライチョウを増やすには、生息エリアを広げることも必要です。この夏、注目されたのが、昨年、約半世紀ぶりに1羽の雌の生息が確認された中央アルプス木曽駒ケ岳。ライチョウは、近親交配を避けるため雌だけが遠くに移動する性質があり、この雌も北アルプスの乗鞍岳から山々を伝って来たとみられています。

 そこで環境省はこの雌を観察して、木曽駒ケ岳周辺が繁殖に適した環境なのかを調べました。雌が巣を作り、6月に8個の卵を産みましたが、ひなにかえらない無精卵だったため、乗鞍岳から採取した6個の有精卵とのすり替えを試みました。

 雌は有精卵を温め、7月に5羽がふ化。天敵に捕食されたのか、残念ながら10日後にはひなはすべて行方不明になりましたが、繁殖できる高い可能性が証明されました。

 来年度は本格的に中央アルプスへの生息地拡大に乗り出します。再び有精卵へのすり替えを試みるほか、捕食動物対策、そして乗鞍岳でケージ保護を行った3家族を「移住」させる計画も検討しています。

 環境省の自然保護官・福田真さん(36)は「生態系に与える影響はほぼない」。トキのように絶滅の寸前から取り組んでは遅いのです。急激に自然環境が変化している今、人間が積極的に動かなければ神の鳥を守ることはできません。

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