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ジュニア 知るコレ! 町に想像ふくらむ表現

東京都庁で期間限定で展示されたネズミの絵=東京都新宿区で

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 東京都港区の防潮扉に、正体不明の芸術家、バンクシーの作品に似た絵が見つかり、今年話題になりました。町を舞台に、無許可で行われる表現活動は「ゲリラアート」と呼ばれます。落書きは犯罪ですが、世界各地で人々が、その作品に魅了されています。なぜでしょう。

 (石川由佳理)

傘を差し、かばんを手にしたネズミ。しっぽはピンと立っています。バンクシーの作品に似ているというこの絵を、東京都は4月末から2週間、都庁で公開し、約3万5000人が訪れました。最終日に来た埼玉県富士見市、嶌野貞利さん(71)は「かわいくてアニメのキャラクターみたい」とすっかり夢中です。バンクシーは名乗り出ていないので、本物かどうかは分かりませんが、バンクシーに詳しい東京芸術大の毛利嘉孝教授(56)によると「作品集に反転した絵が載っているし、本人が東京に来たのは公然の秘密」だそうです。

 バンクシーは、壁や動物園など、たくさんの人の目に触れる場所に、絵を残しています。

 中東のパレスチナにある絵は、その一つ。パレスチナは第一次世界大戦後にイギリスの委任統治下におかれて以降、領土を侵され戦争を繰り返している紛争地。イスラエルが大きな壁を造り、今もパレスチナの住民の自由な移動や暮らしを制限しています。絵は、その「分離壁」に描かれています。少女がたくさんの風船を持って浮かび上がる絵や、壁に穴があいて向こう側が見える絵もあります。

 ほかにもカメラによる監視社会や少年兵、環境汚染など、世界のいろいろな問題に批判を込めたような作品もあります。

 その魅力は何でしょう。毛利教授は「分かりやすいメッセージと、徹底した反権威主義」を挙げます。「反権威」とは、人を無理やり服従させる強い力にあらがうことです。「メッセージがはっきりしていて、専門家にしか分からない絵ではありません。反戦やパレスチナ問題などをストレートに表現するかっこいいやり方です」と語ります。

 バンクシーはイギリス西部出身の男性という説が有力で、1990年代末から活動していることから40代くらいとみられます。素顔が謎に包まれていることも、想像力をかき立てます。

 ネズミの絵を公開した時、都は「公共物への落書きは決して容認できるものではありません」と、ただし書きをしました。落書きは罪に問われるだけでなく、損害賠償を請求される場合もあります。ゲリラアートと犯罪の境目は、どこにあるのでしょう。

 男女6人によるアーティスト「Chim←Pom」は、2011年4月末、渋谷駅(東京都渋谷区)にある故岡本太郎さんの壁画「明日の神話」に、自分たちが描いた絵を無断で張り付け、軽犯罪法違反で書類送検されました。

 「明日の神話」は、1954年に静岡県のマグロ漁船「第五福竜丸」が、アメリカの水爆実験により被ばくし乗員が死亡した事件をきっかけに、制作された作品です。チンポムは、そこに、東日本大震災で爆発した東京電力福島第一原発の絵を加えたのです。

 弁護士の水野祐さん(38)が弁護をして、チンポムは不起訴になりました。その時に水野さんが警察や検察に訴えたのは、誰もが見られる公共空間で作品を披露する意味や必要性が大きかった、ということでした。

 原発事故は、福島を中心に人や自然に計り知れない影響を与えています。その絵を「明日の神話」に足す意味はとても大きく、訪れた人しか作品を見られない美術館ではなく、駅という公共の場所で見せることが大切だったことなどを強調しました。作品や壁をまったく傷めていない点も主張し、認められたのです。

 「町や公共空間がキャンバスとしてふさわしい表現」がゲリラアートと言う水野さんに、落書きとの違いについて尋ねると、「とても難しい。それを判断するのは世間なのか、警察・検察なのか、所有者か、それともアーティストなのか」との答え。一筋縄ではいかない課題です。

チンポムが「明日の神話」に加えた絵。現在は撤去されている=東京都渋谷区で(2011年5月撮影)

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