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知るコレ!

環境に優しい「夢の繊維」

手前はジョロウグモの糸、奥はオニグモの糸=長野県 上田市の信州大上田キャンパスで

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 クモの糸が「夢の繊維」と呼ばれているのを知っていますか。細くてなんだか頼りなさそうですが、鉄よりも強く、軽さや柔らかさも兼ね備えています。その上、環境にも優しい。クモの糸で服や自動車の部品がつくれたら…。実用化に向け、大学や産業界から注目が集まります。(大沢悠)

 光を受けてきらきらと輝く銀白色の糸。信州大繊維学部助教の矢沢健二郎さん(33)が専用の機械を使い、オニグモから採った糸です。「大きさにより1匹から採れる糸の長さは違います」。矢沢さんの経験では、体長7センチほどのオニグモから200メートル採れたのが最長だそうです。

 糸の太さは、直径5マイクロメートルほど。髪の毛1本の10分の1ほどです。なかなか肉眼では捉えられません。

 そもそも何からできているのでしょうか。「成分はタンパク質。タンパク質は20種類のアミノ酸が連なってできています」。タンパク質は人間の筋肉や骨、血液をつくる材料でもあります。クモは体内に糸のもととなるタンパク質の液を持ち、巣をつくったり卵を包んだりと用途によって7種類の糸をつくり、使い分けます。矢沢さんは、特に強度のある、クモがぶら下がる際に体を支える「けん引糸」を研究しています。

 特徴は「軽くて強くて伸びがあること」。同じ太さならば、鉄と比べて25倍ほどの力を加えないと切ることができないそうです。そんな強さを備えつつ、皆さんが着るパーカなどの材料にもなっているナイロンの2倍ほどの伸縮性を持ち合わせています。

 注目される理由はそれだけではありません。水や土の中にいる微生物により、環境に悪い影響を与えない物質に分解されやすい性質があります。そのため、プラスチックなどに比べ、環境に優しいと考えられています。

 まさに「夢の繊維」。しかし、クモの体内で液体から繊維状になる仕組みなど、まだ分からないことがたくさんあります。「クモが糸をつくるメカニズムを解明したい」。矢沢さんの研究は続きます。

 生き物の形や機能をまねてモノづくりに応用する科学技術を「バイオミメティクス(生物模倣技術)」といいます。山形県鶴岡市にあるベンチャー企業「スパイバー」は、独自の方法で人工的にクモの糸をつくり出すことに成功しました。

 クモの糸のタンパク質と同じタンパク質をつくるように微生物の遺伝子を組み換え、微生物を増やしてタンパク質を大量につくります。そのタンパク質をもとに繊維にしたり、繊維と樹脂を混ぜて自動車の部品にしたりと加工して実用化を目指します。「将来的には医療現場にも応用したい」とスパイバー広報の浅井茜さんは話します。

 ウイッグメーカーのアデランスは3月、スパイバーと共同でクモの糸を利用した人工毛髪をつくる研究開発を始めたと発表しました。丈夫で切れにくいのが特徴で、カラーやパーマをかけることができます。化学繊維の人工毛髪は石油資源が原料のため枯渇する恐れがありますが、クモの糸が実用化できれば安定的に生産ができるようになります。

 人工毛髪は2021年、アパレル製品は、それよりも早い段階での商品化を目指しています。

 浅井さんは、マイクロプラスチックなど環境問題が深刻化していることを挙げ「地球環境に配慮した、石油によらない植物資源です」と胸を張ります。クモの糸が世界を救う。そんな日が訪れるのも、そう遠くはないかもしれません。

トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」のシートのイメージ(いずれもスパイバー提供)

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