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知るコレ!

未来変える遺伝子技術 ゲノム編集

細胞(さいぼう)に試薬(しやく)をふりかける実験(じっけん)をする神田光郎助教(かんだみつろうじょきょう)=いずれも名古屋(なごや)市昭和区(しょうわく)の名古屋(なごや)大で

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 新聞やニュースで最近(さいきん)よく「ゲノム編集(へんしゅう)」という言葉(ことば)が出てきますね。何やら難(むずか)しそうですが、私(わたし)たちの食べ物(もの)や医療(いりょう)の未来(みらい)に関(かか)わるノーベル賞級(しょうきゅう)の技術(ぎじゅつ)と言われています。利点(りてん)と課題(かだい)を教えてもらいました。 (芦原千晶(あしはらちあき))

がん治療薬の研究開発進む

 私(わたし)たち人の体は6〜7割(わり)が水分でできています。次(つぎ)に多いのが、2割(わり)を占(し)めるタンパク質(しつ)。筋肉(きんにく)も、食べ物(もの)を解(と)かす酵素(こうそ)も、細菌(さいきん)などと戦(たたか)う抗体(こうたい)もそうです。

 タンパク質(しつ)には設計図(せっけいず)があり、遺伝子(いでんし)といいます。細胞(さいぼう)の核(かく)の中にあり、人では約(やく)2万個(こ)。「ゲノム編集(へんしゅう)」は、その中の狙(ねら)った遺伝子(いでんし)だけを切断(せつだん)し、壊(こわ)したり別(べつ)の遺伝子(いでんし)を組み入れたりして改変(かいへん)できる技術(ぎじゅつ)です。

 3年前からゲノム編集(へんしゅう)を使(つか)い、がんを研究(けんきゅう)している名古屋(なごや)大医学部(いがくぶ)の神田光郎助教(かんだみつろうじょきょう)(43)は「実験(じっけん)自体は中学生でもできるくらい簡単(かんたん)です」と話します。遺伝子(いでんし)を切るはさみ役(やく)のタンパク質(しつ)「キャス9(ナイン)」と、切断(せつだん)したい遺伝子(いでんし)の場所(ばしょ)にはさみを導(みちび)く試薬(しやく)などを混(ま)ぜて細胞(さいぼう)にふりかけ、電気刺激(しげき)などで細胞内(さいぼうない)に入れるだけ。同時に複数(ふくすう)の遺伝子(いでんし)を切ることもできます。

 神田(かんだ)さんは、胃(い)や食道のがん患者(かんじゃ)などを診(み)る外科医(げかい)でもあります。今は人のがんに関係(かんけい)するタンパク質(しつ)の候補(こうほ)を見つけ、その遺伝子(いでんし)を壊(こわ)して働(はたら)きを奪(うば)うとがんがどうなるか、ネズミを使(つか)って実験(じっけん)。目指(めざ)すのは、新しいがんの薬(くすり)の開発(かいはつ)です。

 「今までの遺伝子(いでんし)を切る技術(ぎじゅつ)は、ランダムにたくさんの場所(ばしょ)が切れてしまいましたが、キャス9(ナイン)を使(つか)ったゲノム編集(へんしゅう)は必要(ひつよう)な部分(ぶぶん)を簡単(かんたん)に効率(こうりつ)よく切れます。がんの治療薬(ちりょうやく)の研究(けんきゅう)に欠(か)かせません」と話しました。

長期間の安全 心配する声も

 キャス9(ナイン)を使(つか)うゲノム編集(へんしゅう)の技術(ぎじゅつ)が、発表(はっぴょう)されたのは2012年。海外の2人の女性研究者(じょせいけんきゅうしゃ)が中心となった研究(けんきゅう)の成果(せいか)で、この2人はノーベル賞(しょう)を受(う)けると予想(よそう)されています。

 「この技術(ぎじゅつ)がすごいのは、人や昆虫(こんちゅう)、植物(しょくぶつ)など多くの生き物(もの)で使(つか)えること。すぐに世界中(せかいじゅう)の研究室(けんきゅうしつ)に広がりました」と話すのは、日本ゲノム編集学会(へんしゅうがっかい)の会長で広島(ひろしま)大の山本卓教授(やまもとたかしきょうじゅ)(53)です。

 品種改良(ひんしゅかいりょう)の効率(こうりつ)もスピードも大幅(おおはば)に上がりました。筋肉(きんにく)の成長(せいちょう)を抑(おさ)える遺伝子(いでんし)を壊(こわ)し肉の量(りょう)を多くしたマダイ、芽(め)の毒素(どくそ)を作る遺伝子(いでんし)を働(はたら)かなくした毒(どく)のないジャガイモ、アレルギー物質(ぶっしつ)を作らない卵(たまご)などの開発(かいはつ)も進(すす)んでいるそうです。

 こうした食品(しょくひん)は、早ければ夏に販売(はんばい)されるかもしれません。これまでの品種改良(ひんしゅかいりょう)と同様(どうよう)に遺伝子(いでんし)を壊(こわ)す場合は、国へ届(とど)け出れば安全性(あんぜんせい)の審査(しんさ)が不要(ふよう)に。本来その生き物(もの)が持(も)っていない遺伝子(いでんし)を組み込(こ)む場合は遺伝子(いでんし)組み換(か)え食品(しょくひん)になるため、審査(しんさ)をした上で、国は販売(はんばい)を認(みと)めることになりそうですが、「安全(あんぜん)かどうか長期間調(ちょうきかんしら)べた方がいい」と心配(しんぱい)の声も出ています。

 昨年(さくねん)秋には、衝撃(しょうげき)のニュースも流(なが)れました。中国(ちゅうごく)の研究者(けんきゅうしゃ)が、人の命(いのち)の源(みなもと)である受精卵(じゅせいらん)の遺伝子(いでんし)をゲノム編集(へんしゅう)で改変(かいへん)し、エイズウイルスに感染(かんせん)しない双子(ふたご)を誕生(たんじょう)させたと発表(はっぴょう)。世界中(せかいじゅう)の研究者(けんきゅうしゃ)が非難(ひなん)しました。

 その理由(りゆう)は、人の受精卵(じゅせいらん)の遺伝子(いでんし)を改変(かいへん)し命(いのち)を誕生(たんじょう)させると、その遺伝子(いでんし)の人工的(じんこうてき)な変化(へんか)が子や孫(まご)などに遺伝(いでん)し予期(よき)せぬ悪影響(あくえいきょう)も伝(つた)わるかもしれないから。多くの国で禁(きん)じられ、日本でも指針(ししん)で禁(きん)じる方向(ほうこう)ですが、法整備(ほうせいび)を求(もと)める声もあります。

 「将来的(しょうらいてき)には、遺伝子(いでんし)が原因(げんいん)で起(お)こる病気(びょうき)を生前治療(ちりょう)できる可能性(かのうせい)も持(も)つ素晴(すば)らしい技術(ぎじゅつ)。ただ、今は安全性(あんぜんせい)が完全(かんぜん)に保証(ほしょう)されていないので、人への医療応用(いりょうおうよう)には慎重(しんちょう)になるべきです」と山本(やまもと)さん。目の色や体格(たいかく)など、遺伝子(いでんし)を変(か)えて親の好(この)みに合わせた子ども「デザイナーベビー」が生み出される可能性(かのうせい)もあります。「技術(ぎじゅつ)が悪用(あくよう)されて良(よ)い研究(けんきゅう)まで止まらないよう、社会的(しゃかいてき)なさまざまな影響(えいきょう)を議論(ぎろん)し、研究者(けんきゅうしゃ)を教育(きょういく)することも大切」と訴(うった)えました。

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