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知るコレ!

生活変えた発明 後世に 機械遺産

ガストロカメラGT(ジーティー)−1を持(も)つ開発者(かいはつしゃ)の一人、中坪寿雄(なかつぼとしお)さん=東京都八王子(とうきょうとはちおうじ)市のオリンパス技術開発(ぎじゅつかいはつ)センター石川(いしかわ)で

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 情報通信技術(じょうほうつうしんぎじゅつ)(ICT(アイシーティー))の発達(はったつ)により人々の暮(く)らしが急速(きゅうそく)に変化(へんか)している現代(げんだい)。明治以降(めいじいこう)の日本の近代史(きんだいし)を振(ふ)り返(かえ)ってみると、同じようにたくさんの機械(きかい)の発明(はつめい)が生活を変(か)え、社会を発展(はってん)させてきました。そうした機械(きかい)を後世(こうせい)に伝(つた)えようと、日本機械学会(きかいがっかい)が貴重(きちょう)な遺産(いさん)と認定(にんてい)しているのが「機械遺産(きかいいさん)」です。どんな機械(きかい)が選(えら)ばれているのでしょうか? (宮崎厚志(みやざきあつし))

 機械技術(きかいぎじゅつ)の歴史上(れきしじょう)の価値(かち)や社会、生活への貢献(こうけん)、独自性(どくじせい)など、さまざまな認定基準(にんていきじゅん)のある機械遺産(きかいいさん)。そのすべてに当てはまるとして、2007年に最初(さいしょ)に認定(にんてい)された25件(けん)のひとつが、精密機器(せいみつきき)メーカーのオリンパス社が1950年に試作機(しさくき)を完成(かんせい)させた「ガストロカメラGT(ジーティー)−1」。先端(せんたん)にレンズのついた軟(やわ)らかい管(くだ)を口から挿入(そうにゅう)して、胃(い)の中を撮影(さつえい)する胃(い)カメラです。

 第二次世界大戦(だいにじせかいたいせん)が終(お)わったばかりの頃(ころ)。生活用水が清潔(せいけつ)ではないため胃(い)にかいようができやすく、胃(い)がんで多くの人が亡(な)くなっていました。そんな中、顕微鏡(けんびきょう)の製造(せいぞう)が事業(じぎょう)の柱(はしら)だったオリンパス社に、東京(とうきょう)大病院分院(びょういんぶんいん)の宇治達郎医師(うじたつろういし)から「胃(い)の中を撮影(さつえい)するカメラを作れないか」と依頼(いらい)が持(も)ち込(こ)まれます。当時の検査(けんさ)は直線型(ちょくせんがた)の金属管(きんぞくかん)などを差(さ)し込(こ)み鏡(かがみ)で見る方法(ほうほう)で、患者(かんじゃ)はつらい思いをしていました。

 開発(かいはつ)にかけられる人員(じんいん)や予算(よさん)はわずか。当時入社したてで開発(かいはつ)チームの一員(いちいん)となった中坪寿雄(なかつぼとしお)さん(89)は「胃(い)カメラなんていかがわしいと、上層部(じょうそうぶ)には快(こころよ)く思わない人も多かった」と振(ふ)り返(かえ)ります。

 中坪(なかつぼ)さんらは東奔西走(とうほんせいそう)します。真(ま)っ暗(くら)な胃(い)の内部(ないぶ)の撮影(さつえい)に必要(ひつよう)な強い光源(こうげん)や極小(きょくしょう)レンズの開発(かいはつ)、材質探(ざいしつさが)し、暗室内(あんしつない)でフィルムを細切りにする手作業(てさぎょう)など、すべてが手探(てさぐ)り。初(はじ)めて撮(と)ったモノクロ画像(がぞう)は胃液(いえき)で曇(くも)り、とても診断(しんだん)には使(つか)えなかったそうです。

 特別(とくべつ)なカラーフィルムを製造(せいぞう)してくれる会社を見つけに単身(たんしん)ドイツへも。初(はじ)めてピンク色の胃(い)の内壁画像(ないへきがぞう)を見たとき「色がつくだけでまるで価値(かち)が違(ちが)う」と感激(かんげき)しました。情熱(じょうねつ)ある医師(いし)たちとともに3年かけて実用化(じつようか)。検診(けんしん)が普及(ふきゅう)し診断(しんだん)も進歩(しんぽ)して早期(そうき)の胃(い)がんの発見(はっけん)も進(すす)みました。その後25年間で胃(い)がんの死亡率(しぼうりつ)は約(やく)30%減(へ)りました。

 同社は64年、現像(げんぞう)の必要(ひつよう)がなく、病変(びょうへん)の一部(いちぶ)も採取(さいしゅ)できるファイバースコープ付(つ)き胃(い)カメラを発売(はつばい)し、内視鏡手術(ないしきょうしゅじゅつ)の時代(じだい)が幕(まく)を開(あ)けます。現在(げんざい)は収益(しゅうえき)の約(やく)8割(わり)が医療事業(いりょうじぎょう)に基(もと)づいています。機械遺産(きかいいさん)への認定(にんてい)について「非常(ひじょう)に名誉(めいよ)なこと」と喜(よろこ)ぶ中坪(なかつぼ)さん。「自分が誇(ほこ)りに思う仕事(しごと)の中にあえて欠点(けってん)を見つけ、乗(の)り越(こ)える次(つぎ)の技術(ぎじゅつ)を生み出してほしい」と現代(げんだい)の開発者(かいはつしゃ)たちへメッセージを送(おく)りました。

 機械遺産(きかいいさん)は、機械技術(きかいぎじゅつ)に関(かか)わる技術者(ぎじゅつしゃ)や研究者(けんきゅうしゃ)らからなる日本機械学会内(きかいがっかいない)の機械遺産委員会(きかいいさんいいんかい)が選定(せんてい)し、2018年度(ねんど)までの12年間で94件(けん)に増(ふ)えました。19年度(ねんど)の委員長(いいんちょう)で岩手(いわて)大理工学部(りこうがくぶ)の小野寺英輝准教授(おのでらひできじゅんきょうじゅ)(56)は、「日本人がしてきた技術開発(ぎじゅつかいはつ)を伝(つた)え、そのシンボルとなること」と説明(せつめい)。後世(こうせい)の技術(ぎじゅつ)の発展(はってん)の基礎(きそ)となり、評価(ひょうか)が定(さだ)まっている機械(きかい)を選(えら)びます。

 中部(ちゅうぶ)9県(けん)には24件(けん)があります=図。小野寺(おのでら)さんは「世界遺産(せかいいさん)と同じでどういう意味(いみ)を持(も)っているのかが大事(だいじ)」と強調(きょうちょう)します。例(たと)えば明治初期(めいじしょき)の工作機械(きかい)「門形平削(もんがたひらけず)り盤(ばん)」(菊花御紋章付平削盤(きっかごもんしょうつきひらけずりばん))は愛知県犬山(あいちけんいぬやま)市の博物館明治村(はくぶつかんめいじむら)にありますが、活躍(かつやく)した舞台(ぶたい)は岩手県(いわてけん)。県(けん)の発注(はっちゅう)により発明(はつめい)され、県内(けんない)を流(なが)れる北上(きたかみ)川の船舶修理所(せんぱくしゅうりじょ)で使用(しよう)されて、水運(すいうん)による東北(とうほく)地方の産業(さんぎょう)の発展(はってん)を支(ささ)えました。

 機械(きかい)には物語(ものがたり)があり人々の生活と深(ふか)く関(かか)わっています。

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