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知るコレ!

「文化」「資源」どう守る 捕鯨

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 昨年末(さくねんまつ)、日本政府(せいふ)は、クジラの保護(ほご)や利用(りよう)のルールなどを話し合う国際機関(こくさいきかん)、国際捕鯨委員会(こくさいほげいいいんかい)(IWC(アイダブリュシー))から脱退(だったい)する方針(ほうしん)を決(き)めました。捕鯨(ほげい)とはクジラを捕(と)ることです。日本は古くからクジラを食料資源(しょくりょうしげん)として活用してきた捕鯨国(ほげいこく)。資源(しげん)としてのクジラを守(まも)るにはどうしたらいいか、考えてみましょう。 (福沢英里(ふくざわえり))

 人口約(やく)3100人の和歌山県太地(わかやまけんたいじ)町。江戸時代(えどじだい)にさかのぼる「古式捕鯨発祥(こしきほげいはっしょう)の地」として知られる町は今、クジラの生態(せいたい)を調(しら)べる研究拠点(けんきゅうきょてん)を目指(めざ)したまちづくりに取(と)り組んでいます。

 同町総務課(そうむか)くじらの海推進班(すいしんはん)の和田正希(わだまさき)さんは「『鯨(くじら)一頭七浦潤(うらうるお)す』という言葉(ことば)があるほど、捕鯨(ほげい)が村全体(ぜんたい)に利益(りえき)をもたらした時代(じだい)がありました」と話します。でも、1960年代(ねんだい)中ごろからは、捕(と)る以外に「見せる」ことを産業(さんぎょう)の柱(はしら)に加(くわ)え、町立の「くじらの博物館(はくぶつかん)」を造(つく)るなど観光(かんこう)に生かしてきました。クジラを余(あま)さず使(つか)う食文化(しょくぶんか)や独特(どくとく)の祭(まつ)りなどは「捕鯨文化(ほげいぶんか)」として文化庁(ぶんかちょう)の日本遺産(いさん)に認定(にんてい)されています。今は「クジラに関(かか)わり続(つづ)けていく町」と宣言(せんげん)。町の玄関口(げんかんぐち)、森浦地区(もりうらちく)に面(めん)した森浦湾(もりうらわん)に、100頭ほどの小型(こがた)クジラを飼育(しいく)する準備(じゅんび)を進(すす)めています。

 一方、クジラは資源(しげん)として、日本も批准(ひじゅん)している国連海洋法条約(こくれんかいようほうじょうやく)で「国際機関(こくさいきかん)を通じて管理(かんり)する」と定(さだ)められています。IWC(アイダブリュシー)は保護(ほご)を目的(もくてき)に82年に商業捕鯨(しょうぎょうほげい)の一時停止(ていし)を決(き)めました。このため日本はクジラの生態(せいたい)を調(しら)べる調査捕鯨(ちょうさほげい)を主(おも)にしてきましたが、今回、IWC脱退(アイダブリュシーだったい)を表明(ひょうめい)し、日本近海での商業捕鯨(しょうぎょうほげい)を今年7月から再開(さいかい)する方針(ほうしん)です=図。太地(たいじ)町漁業協同(ぎょぎょうきょうどう)組合の貝良文参事(かいよしふみさんじ)は「大型(おおがた)を捕(と)ることが可能(かのう)になれば、脂(あぶら)がのっておいしいクジラを提供(ていきょう)できる」と期待(きたい)します。

 ところが商業捕鯨(しょうぎょうほげい)をやめてから30年がたち、鯨肉(げいにく)の国内消費量(しょうひりょう)は大きく減(へ)っています=グラフ。タンパク源(げん)として重宝(ちょうほう)されたのは戦後(せんご)の食糧難(しょくりょうなん)のころや50〜60年代(ねんだい)の学校給食(きゅうしょく)。学校給食歴史館(きゅうしょくれきしかん)(埼玉県北本(さいたまけんきたもと)市)の大沢次夫館長(おおさわつぎおかんちょう)は「竜田揚(たつたあ)げが振(ふ)る舞(ま)われ、価格(かかく)的(てき)にも使(つか)いやすかった」と説明(せつめい)します。今、和歌山県(わかやまけん)学校給食会(きゅうしょくかい)でも給食(きゅうしょく)を通じた鯨肉(げいにく)の普及(ふきゅう)に努(つと)めますが、子どもたちにとってはなじみの薄(うす)い食材(しょくざい)です。

 市民団体(しみんだんたい)「イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク」(東京都(とうきょうと))の倉沢七生事務局長(くらさわななみじむきょくちょう)は「商業捕鯨(しょうぎょうほげい)となると利益(りえき)を上げねばなりません。需要(じゅよう)が多いわけでもないのに、大量(たいりょう)に流通(りゅうつう)させ、残(のこ)ったら捨(す)てる今のシステムでは、どう捕(と)り過(す)ぎに歯止(はど)めをかけるのか」と疑問(ぎもん)を投(な)げかけます。

 元水産庁職員(すいさんちょうしょくいん)でIWC交渉(アイダブリュシーこうしょう)を経験(けいけん)した東京財団上席研究員(とうきょうざいだんじょうせきけんきゅういん)の小松正之(こまつまさゆき)さんは「クジラがかわいそうと思うのは当然(とうぜん)の気持(きも)ち。けれど、人間の都合(つごう)で狭(せま)い小屋(こや)に押(お)し込(こ)まれ飼育(しいく)される牛や豚(ぶた)はどうなのか。環境(かんきょう)や生態系(せいたいけい)に配慮(はいりょ)し調査(ちょうさ)を目的(もくてき)にクジラを捕(と)る視点(してん)こそ、生物多様性(せいぶつたようせい)に必要(ひつよう)ではないでしょうか」と指摘(してき)します。

 なぜ調査捕鯨(ちょうさほげい)をするのでしょう。三重(みえ)大大学院生物資源学研究科(だいがくいんせいぶつしげんがくけんきゅうか)の吉岡基教授(よしおかもといきょうじゅ)は「クジラは海の生き物(もの)の頂点(ちょうてん)にいます。生態系(せいたいけい)のバランスが崩(くず)れないよう維持(いじ)する要(かなめ)の存在(そんざい)です」と説明(せつめい)します。

 クジラは、大型(おおがた)で歯(は)のないヒゲクジラと歯(は)を持(も)つハクジラという2つの仲間(なかま)に分かれます。「約(やく)90種類(しゅるい)いて、生態(せいたい)がすべて分かっているわけではありません」。人と同じ肺(はい)で呼吸(こきゅう)する哺乳類(ほにゅうるい)なのに、大型(おおがた)のマッコウクジラは30分以上(いじょう)海に潜(もぐ)っていられることが分かっています。「吐(は)き気やめまいなどの神経症状(しんけいしょうじょう)を引き起(お)こす潜水病(せんすいびょう)になぜならないのかなど、解明(かいめい)できていないことは多いのです」

 日本の調査捕鯨(ちょうさほげい)はクジラを殺(ころ)して調(しら)べる致死的調査(ちしてきちょうさ)と、それ以外(いがい)の非致死的調査(ひちしてきちょうさ)があります。前者(ぜんしゃ)ではクジラの耳あかを取(と)って年齢(ねんれい)を調(しら)べ、群(む)れの年齢構成(ねんれいこうせい)や繁殖(はんしょく)の年齢(ねんれい)を把握(はあく)します。吉岡教授(よしおかきょうじゅ)は「今後、科学技術(ぎじゅつ)が進(すす)めば、クジラを殺(ころ)さずにさまざまな情報(じょうほう)を集(あつ)めることも可能(かのう)になるかもしれません」と見通します。

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