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知るコレ!

剣術の流派から派生 二刀流

 アメリカの大リーグで先月12日、ア・リーグの最優秀(さいゆうしゅう)新人(新人王)に選(えら)ばれたエンゼルスの大谷翔平選手(おおたにしょうへいせんしゅ)(24)。快挙(かいきょ)を伝(つた)える新聞の見出しには「二刀流(にとうりゅう)」の文字が躍(おど)りました。10試合(しあい)で投(な)げ、放(はな)ったホームランは22本と、まさに投打(とうだ)の活躍(かつやく)。そもそもこの二刀流ってどこから来た言葉(ことば)なのか、調(しら)べてみました。 (福沢英里(ふくざわえり))

 「二刀流(にとうりゅう)」を辞書(じしょ)で引くと「両手(りょうて)に一本ずつの刀を持(も)って戦(たたか)う剣術(けんじゅつ)の流派(りゅうは)」とあります。江戸時代初期(えどじだいしょき)の剣豪宮本武蔵(けんごうみやもとむさし)が広めた、武術(ぶじゅつ)の一流派を指(さ)します。今から400年ほど前、その宮本武蔵が尾張徳川家(おわりとくがわけ)に「円明流(えんめいりゅう)」という名前で技(わざ)を伝(つた)えました。

剣道(けんどう)の二刀流(にとうりゅう)の構(かま)えを見せる浜口健次(はまぐちけんじ)さん=三重県鈴鹿(みえけんすずか)市の鼓ケ浦(つづみがうら)中で

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 今も伝統(でんとう)を受(う)け継(つ)ぐ「春風(しゅんぷう)館道場(かんどうじょう)」(名古屋(なごや)市中川区(なかがわく))の館長、加藤伊三男(かとういさお)さん(85)は「何人もの武士(ぶし)が向(む)かってくる戦(いくさ)において、勝(か)つための合理的(ごうりてき)で実践(じっせん)的な方法(ほうほう)」と説明(せつめい)します。片方(かたほう)の剣で相手(あいて)の動(うご)きを制(せい)し、もう片方で斬(き)るという攻(せ)め方ができるからです。当時は剣道に限(かぎ)らず、なぎなた、棒(ぼう)、杖(じょう)、やりなどさまざまな武器(ぶき)を使(つか)った総合(そうごう)武術の中でも優(すぐ)れた技でした。

 先月富山県(とやまけん)で開(ひら)かれた高齢者(こうれいしゃ)のスポーツと文化(ぶんか)の祭典(さいてん)「ねんりんピック富山2018」で、剣道の二刀流で出場した三重(みえ)県剣道連盟鈴鹿支部長(れんめいすずかしぶちょう)の浜口健次(はまぐちけんじ)さん(69)に実際(じっさい)の動きを見せてもらいました。右手に通常(つうじょう)の竹刀(しない)、左手には「小太刀(こだち)」と呼(よ)ばれる短(みじか)めの竹刀を持って構(かま)えます。小太刀で相手の動きを防御(ぼうぎょ)しつつ、右手の竹刀で「面(めん)!」。

 目標(もくひょう)にしていた全国審査(ぜんこくしんさ)が必要(ひつよう)な六段(だん)に昇段(しょうだん)後、浜口さんは二刀流に挑戦(ちょうせん)。両手で一本の竹刀を操(あやつ)るのとは違(ちが)い、一本ずつ刀を持つので、相当(そうとう)な腕力(わんりょく)と鍛錬(たんれん)が必要です。素振(すぶ)りをしたり、重(おも)たい物(もの)を持ったりして日頃(ひごろ)から稽古(けいこ)に励(はげ)んでいます。七段の今も「相手に向かっていこうという気持ちが強くなった」と進化(しんか)を続(つづ)けています。

 剣術の「二刀流」を大谷選手(おおたにせんしゅ)が実践すると、右手にバット、左手にグローブで構える姿(すがた)を想像(そうぞう)しますが、実際はそうではありません。小学館(しょうがくかん)の国語辞典編集(じてんへんしゅう)部によれば、大谷選手の活躍(かつやく)などにより「二つの物事(ものごと)を同時にうまく行えること。また、その人」という新たな意味(いみ)が2016年10月、インターネット上のデジタル大辞泉(だいじせん)に加(くわ)わりました。

 2つの職業(しょくぎょう)を掛(か)け持ちする「二足のわらじを履(は)く」の意味で二刀流が使われることもあります。愛知(あいち)大文学部日本語日本文学専攻(せんこう)の和田明美教授(わだあけみきょうじゅ)(日本語学)は「本質(ほんしつ)的な意味を離(はな)れ、より抽象化(ちゅうしょうか)して日常(にちじょう)生活のあらゆる場面で使えるように、言葉(ことば)の意味を広げる現象(げんしょう)はよくある」と分析(ぶんせき)します。二刀流が重宝(ちょうほう)される背景(はいけい)として「『二足のわらじを履く』より「語感(ごかん)がよく、時代の感性(かんせい)にも合っているのでは」と指摘(してき)します。

ピアノを弾(ひ)きながら共演者(きょうえんしゃ)の紹介(しょうかい)をする、ジャズピアニストで数学者の中島(なかじま)さち子(こ)さん=名古屋(なごや)市港区(みなとく)の名古屋港(こう)ポートビルで

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 二刀流(にとうりゅう)の魅力(みりょく)はどんなところにあるのでしょうか。二刀流として紹介(しょうかい)される機会(きかい)が増(ふ)えたという、ジャズピアニストで数学者(すうがくしゃ)の中島(なかじま)さち子(こ)さん(39)。名古屋(なごや)市内のライブ会場に足を運(はこ)ぶと、体を大きく揺(ゆ)らしたり、力強く足踏(あしぶ)みしたりして、自作曲(じさくきょく)を演奏(えんそう)する姿(すがた)がありました。曲と曲の間にマイクを握(にぎ)り「素数(そすう)の個性(こせい)と音律(おんりつ)」という一見、難解(なんかい)なテーマを楽しそうに話す様子(ようす)はまさに数学者です。

 好奇心旺盛(こうきしんおうせい)で好(す)きな物(もの)がたくさんあった中島さんは「心のアンテナに触(ふ)れ、面白(おもしろ)そうと思った分野をまずは深掘(ふかぼ)りしてみる。そういった分野が2点以上(いじょう)あると、自分自身(じしん)でコラボレーションでき、価値(かち)ある物が生まれやすい」と教えてくれました。自分と違(ちが)う視点(してん)を持(も)った人たちとの出会いが増え、人生の幅(はば)が広がったそうです。

 ピアノは幼少期(ようしょうき)に始(はじ)め、作曲も編曲(へんきょく)も得意(とくい)でした。一方、中3のときに月刊誌(げっかんし)「大学への数学」に載(の)っていた難問(なんもん)1問を、1カ月考え抜(ぬ)いて解(と)くという経験(けいけん)が数学者を目指(めざ)した原点。「近道を求(もと)めるより、いばらの道を進(すす)むと、感覚(かんかく)が養(やしな)われ、楽しくなる。応用(おうよう)もきくんです」。二刀流の生き方を選(えら)んだ中島さんはとても生き生きしていました。

 

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