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鉄道まるっと切り抜き帳

旅情かき立てる駅弁専売130年 「井筒屋」宮川亜古社長に聞く

宮川亜古社長

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 現在のように自動車が普及するまでは、国内旅行は鉄道を使うのが一般的だった。長い旅のお供になったのは、地域の食材と味が詰まった駅弁だ。鉄道の高速化などに伴い車内でゆっくり味わう機会は減ったが、駅弁は今も老若男女の旅情をかき立てる。駅弁の専売を始めて今年で130年を迎えた「井筒屋」(米原市)の5代目社長宮川亜古さん(57)に、時代の変化に対応しながら伝統の味を守り続ける同社の経営理念などを尋ねた。

 井筒屋の成り立ちを教えてください。

 −東海道線が全通した1889年、旧長浜駅舎の近くで旅籠(はたご)屋を営んでいた先祖の宮川利八が交通の要衝の米原駅構内で弁当を販売する許可を得たのが始まりです。先見の明があったと思います。

 最盛期は15人前後が立ち売りでお弁当を売ったと聞いています。工場の給食を作っていた時期もありましたが、あえて取りやめ、鉄道とともに歩んだことがポイントだと思います。

 カモのローストやエビ豆など、湖北地域の名物が詰まった人気の駅弁「湖北のおはなし」が誕生したきっかけは。

 −1987年の国鉄民営化に伴い、JR東海から「民営化記念の弁当を」と要請を受け、父母が「井筒屋らしく素朴で、おばあちゃんが手作りしたようなお弁当」として提案しました。包む風呂敷が唐草模様で、中身も地味だったので「変えた方がいい」と言われましたが「これで通します」と頑張ったようです。

 「口コミ」で評判が広がり、午前中で売り切れることも多いです。米原で停車する新幹線にわざわざ乗って購入したり、ドライブがてら買いにきたりするお客さまもいます。期待を裏切らないよう、良い商品を作り続けなければならないと思う日々です。基本的な味は変えていませんが、時代に合わせて変化した点もあります。例えば小芋は昔、衣かつぎだったんですよ。季節感を伝えるため、春夏秋冬でおこわを変えます。

(上)根強い人気を誇る「湖北のおはなし」(下)「湖北のおはなし」と人気を二分する「近江牛大入飯」=いずれも井筒屋提供

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 自ら手掛けた「近江牛大入飯」も好評ですね。

 −以前からステーキ弁当などがありましたが、もう少しインパクトがあり、若い人に受け入れられる弁当をと考えました。ほんのりカレー風味に炊きあげたご飯に、自家製のタレで炒めた近江牛を乗せれば年齢問わず喜んでもらえると思いました。2006年9月から販売し、「湖北のおはなし」と並ぶ人気です。

 駅弁業界を取り巻く現状は。

 −非常に厳しいと思います。駅弁と、駅弁でないお弁当の違いがなくなってきました。特に若い世代は駅弁にこだわらず、「おいしいお弁当ならいい」との感覚でしょうか。駅で商売をしていてもコンビニでお弁当を買い、乗車する人もいます。

 ただ、今日まで駅弁屋として続いてきたのは「鉄道」と「食」を守ってきたからです。目と手の届く範囲で、身の丈に合った商売を続けてきました。当たり前のことを当たり前に、きっちりやってきたのも良かったのではないでしょうか。

 10月から消費税率が引き上げられました。

 −税率が10%になる仕入れ材料もあります。値上げをせざるを得ない商品はありますが、値上げしても質と味を守りながら、お客さまに提供していきます。

 缶ビールを買うお客さまもいますので、2種類の税率に対応したレジを導入しました。販売スタッフへの社員教育などにコストと時間もかけています。クレジットカードは使えないですが、キャッシュレス決済への対応で、交通系ICカード(トイカ、イコカ)で支払いができるようにしました。お客さまへの対応が早くなったと聞いています。

 今後の展望は。

 −足元を固め、堅実な経営を続けたいとの思いが強いです。人材不足の時代なので、従業員の雇用と井筒屋をしっかり守りたい。

 新規出店は今のところ、考えていません。今は企業間の業務提携も多いですが、「双方の良さがなくなるのではないか」と思うところもあります。時代の波に乗り遅れてもいけませんが、無理に乗っては今まで積み重ねた信頼が崩れることもあります。その辺りは焦らず、慎重にやりたい。

 事業承継は常日ごろから考えています。後継者がいなくて廃業する会社も多いですが、そうならないように筋道をきちんと付け、次世代にバトンタッチできればいいと思います。

 (相馬敬)

 <みやがわ・あこ> 1962年生まれ、米原市出身。米シャミナード大を卒業後、駅弁などの製造販売を手掛ける松浦商店(名古屋市)やアサヒビール、プリンスホテルを経て1994年に井筒屋入社。2007年から社長。

 <井筒屋> 本店・本社工場は米原市下多良。資本金4500万円で、2018年12月期の売上高は3億2000万円。従業員数50人。営業店舗は6店舗。高速道を使うバスツアーの団体客向けの弁当販売にも力を入れ、売り上げを駅売りとほぼ二分する事業にまで成長した。駅弁以外にも学校行事や仏事、会合などの弁当注文を受け付けているが、販売は1日1000食まで。(問)井筒屋=0749(52)0006

 

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