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鉄道まるっと切り抜き帳

駅弁店、60年の歩み5月末閉店へ JR美濃太田駅、中部唯一の立ち売り

ホームで駅弁を立ち売りする酒向茂さん=美濃加茂市のJR美濃太田駅で

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 美濃加茂市のJR美濃太田駅にある駅弁店が5月31日で閉店する。中部地方の駅で唯一、ホームでの立ち売りを年中無休で続けてきたが、近年は列車の停車時間の短縮やコンビニ弁当などに押されて販売数が減り、店主も高齢に。多くのファンに惜しまれながら60年の歴史に幕を閉じる。

 名物「松茸(まつたけ)の釜飯」を並べた箱を首から下げ、列車が到着したホームをゆっくりと歩く。「どっからみえたの」。寄ってきた客に気さくに話し掛けながら、弁当を手際良く袋に入れる。「お客さんからいろんな話が聞けて面白かったよ」。仕出し業「向龍館(こうりゅうかん)」の2代目、酒向茂さん(75)は目を細めた。

 茂さんの父、和男さんが駅弁の立ち売りを始めたのは1959(昭和34)年。昭和50年代にかけて、同駅は木曽川の船下りなどに向かう人たちでにぎわい、地元特産のマツタケをふんだんに使った釜飯も一日に300個、400個と飛ぶように売れた。

 車窓から駅弁を渡した途端に列車が走りだし、代金をもらい損ねたこともよくあったが、「昔は良かった」と茂さん。車両の窓が開かなくなり、停車時間も短くなった今は「一日10個売れればいい方」という。「始発駅ならまだしも中間駅はだめ。世の中が便利になるほど、あかんくなった」

 ピーク時には30人ほどいたスタッフも離れ、4年前に妻の素子さん(72)と2人だけに。駅近くの本店で釜飯を作り、茂さんが毎日朝から夕方まで駅に立ち続けてきた。「駅と一緒で一日も休めんで、だんだんと体がえろうなった。寂しいけどな」。夫婦で話し合い、立ち売りの終了を決めた。

 4月末でやめるつもりだったが、JR側から「今年は連休が長いから」と頼まれ、1カ月延ばした。茂さんは「令和にもちょこっとやれたし、連休中は30個ずつくらい売れた」と喜ぶ。インターネットなどで閉店を知り、遠方から訪れた人が多かったという。

 本店の営業は当面続ける。釜飯も材料があるうちは注文を受けて販売し、市のふるさと納税の返礼品にも出していく。素子さんは「たくさんの人にかわいがってもらって、ここまでやり切ることができた」と感謝する。「久しぶりに2人で出掛けるかね」と、茂さんは照れくさそうに笑った。

 (平井一敏)

 

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