トップ > 特集・連載 > ニュースを問う > 記事一覧 > 記事

ここから本文

ニュースを問う

ジャパンライフと「桜を見る会」 (福井報道部・梶山佑)

報道部に届いた女性の手紙。ジャパンライフと政治家への怒りがつづられている

写真

 報道部に届いた手紙を「記事になるようなら取材してみて」とデスクに渡されたのは、昨年十二月中旬のことだった。

 「実は私もジャパンライフに預託金を七千万円と言う大金をしていた者です」

◆80代女性怒りの手紙

 そんな書き出しを見て、警察を担当する自分が手紙を渡された理由が分かった。福井県内のお年寄りにも被害者は多い。手紙の末尾には「八十代の老婆」とあった。だが、正直なところ、トップを「桜を見る会」に招待していた問題を野党が追及する国会の風景は、個人的には少し距離を置いて見ていた。被害者感情を政争の具にしていると不快感すら持っていた。

 手紙は便箋十枚にびっしりと力強い文字で書かれていた。

 「二〇一四年に近所の奥さまから誘われて、何も知らずに行ったのがジャパンライフの金沢でのセミナーでした」「政治家の顔が出ているパンフレットやスライドの映像を見せられ」「国が奨励している一つの事業の会社だと聞かされ信じてしまいました」

 文中に「自叙伝は書き残します。自費出版します。全額を返金していただければ、自分史で終わります」とあった。返金がかなわなければすべてバラす、という意味だろう。手紙に延々とつづられた、昭和初期に生まれてからの苦難の人生。だが、そんな自叙伝に、政治家への恨みつらみが書き込まれたところでどうなるものでもない。正直、理解に苦しんだ。年が明け、時間に余裕ができたところで手紙にあった携帯電話番号にかけ、女性に連絡を取ってみた。

 普通車を運転して現れた女性は開口一番「私を八十のばあさんだと思って甘く見ないで。絶対に私だと分かるような記事にはしないでちょうだい」とくぎを刺した。

 取材中に知ったが、女性はこの日も恨みを忘れないよう、あえてジャパンライフの商品の磁気ベストを着込んでいた。強い信念。だまされやすい感じもない。これほどしっかりとした女性がなぜ、個人商店で苦労してためた老後資金の七千万円もの大金をだまし取られたのか。

 女性が大量に持ってきたジャパンライフの資料には、「病気になるとお金がかかる」「社会保障はあてにならない」「何もしないでいると確実に老後貧乏に陥る」などとあった。おかしいのは、「磁気治療器に投資すれば資産が守れる」と断言している点だけだ。

 「この前も二千万円って話があったでしょ」と女性に言われ、なるほどと思った。この資料は二年以上前に女性が受け取ったものだが、昨年、金融庁が「老後は二千万円が必要だ」と言って投資を促し、問題になった。社会保障に責任を持たず、老後に不安を抱かせる政治が、結果的に高齢者を無謀な投資に走らせる土壌を生んでいたのかもしれない。

◆首相らの写真を利用

 証拠だと見せてくれたカラフルな資料には麻生太郎副総理兼財務相の顔写真があり、吹き出しで「活力ある高齢化社会。高齢者市場は今後、必ず発展する」とあった。当時のセミナーでは安倍晋三首相や加藤勝信厚生労働相の写真もスライドで見せられ、「山口隆祥会長(当時)の言葉巧みな勧誘で、催眠術にかかったように信じ切ってしまいました」と言う。

 かすれるような声で出た言葉は「年寄りは政治家を出されると一番弱い」。詐欺のような手法にからめ捕られてしまった女性の無念が、私の胸にもすとんと落ちた。

 ジャパンライフ側が政治家を利用していたにすぎない、だまされた自分が愚かだったと、女性を含め多くの被害者が感情を押し殺してきた。だからこそ「桜を見る会」の招待状が首相枠で山口会長に送られていた疑惑が強まり、政府側の関与が明らかになった今、怒りの矛先が政府にも向き、女性は初めて報道機関に手紙を書いたのだろう。

 磁気ベストの上にコートを羽織り、重い紙袋を手に、体を傾けながら駐車場に向かう女性の後ろ姿を見送った。不思議なことに、政治への恨みが彼女を勢いづかせているようにも見えた。手紙をもう一度読み返した。

 「戦争中の生めよ!増やせよ!の時代に生まれ」「赤子を背におぶっての仕事は今思うと地獄でした」「お金のかゝる弁護士には相談出来ず、家族にも言えないまゝ二年近くになる今、毎日が気が狂わんばかりの日々を過ごして居ります」

 女性が自叙伝に書こうとしている半生は、貧しさや戦争、田舎ならではの女性の不遇に苦しみながらも商店を軌道に乗せ、子や孫も立派に育ったという物語で、読み応えがあった。そんな苦労が台無しとなり、全ての不満が政府に向かってフィナーレとなる。政府はそうなるだけの「関与」をしてしまっているのだ。

 自叙伝は無名の女性一人だけのものにとどまらない。全国で数千人もの高齢者の最終章が今、ジャパンライフ回になろうとしている。

 

この記事を印刷する

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索