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西山美香さんの手紙・供述弱者を守れ 作られた調書・追記 秦融(編集委員)

再審結審後の記者会見を終え、両親に声をかける西山美香さん(右)=10日、大津市で

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 冤罪(えんざい)は「組織」がつくる。一方、解く鍵は個人にあると思う。私たちの報道では、その「個」がどうつながったのか。振り返ってみたい。

 当欄「ニュースを問う」の担当デスクをしている私が、西山美香さん(40)の手紙を知ったのは二〇一六年秋のことだった。当時滋賀県政担当だった角雄記君(37)と、別件で打ち合わせをしているとき「実はこんな話が」と知らされた。

◆一読して「真実」直感

 彼は、私に会う一年以上前に両親を訪ね、手紙を見せてもらっていた。つたなさと、幼さが残る文面に「借り物の言葉ではない」と直感しながらも、その後、再審の訴えが大津地裁で棄却され、書くタイミングを失っていた。私も一読して「これは本物の冤罪だ」と思った。紙面化を半ばあきらめていた角記者に「ニュースを問う、に書いてみては」と促した。

 角記者は「裁判で再審の判断が出ていなくても掲載できるんですか」と聞き返した。確かに、裁判で七回も有罪を認定された事件で冤罪を訴えるのは、難しい。報道は判決を客観性のよりどころとするからだ。だが、当欄は筆者の顔写真付き、署名入り。あくまで個人の主張という体裁を取っている。

 そもそもメディアにとって、必ずしも裁判の結果がすべてではない。裁判は裁判、報道は報道。大切なのは、法廷にはない独自の情報と判決とは違う視点から「真実」を伝えることだ。手元にはすでに、記者とデスクが冤罪を確信した手紙の山がある。伝える努力をするべきだと思った。だが、手紙だけでは十分ではない。裁判では自ら殺人を「自白した」と認定されている。そこが、どうにも重かった。

 恩師への取材や両親の話から、発達障害があるのではないか、との印象を持った。発達障害への無理解で誤認逮捕される冤罪事件は現実に起きている。裁判で一切検証されていない。そこにかすかな可能性があった。

 問題は、刑務所の中にいて取材ができない西山さんの障害を、どう立証するかだった。途方に暮れていたとき、同期入社で中日新聞の記者から精神科医に転身した小出将則君(58)に連絡すると「すぐに手紙を見たい」とのこと。手紙のコピーを見せると、誤字の特徴から「発達障害だけではない。軽度だが知的障害がある」と言下に指摘した。大きな転機だった。

 「個」のつながりは広がる。弁護団長の井戸謙一弁護士の協力で和歌山刑務所での鑑定が正式にセッティングされた。和歌山に向かう特急列車には、私と角記者、井戸さん、小出君、さらに彼のつてで臨床心理士の女性が同行してくれた。二人とも、ボランティアでの協力だった。

 予想どおりの鑑定結果に、誰もがこの事件が投げかける深刻さを思わずにはいられなかった。帰りの電車内で、小出君はアクリル板越しに会話を交わした西山さんの印象を語った。

◆気づかれにくい障害

 「彼女は外見や日常生活では障害が気づかれにくいグレーゾーンの人。似た人は実は世の中にたくさんいる。本人も気づかず、周囲にも気づかれにくいだけに、コミュニケーションに失敗し、誤解され、苦しんでいる。自分の病院に来る患者さんの多くがそうだ。気づいていないだけで、自分たちの周りにもたくさんいる。だからこそ、この冤罪は絶対に解かなくてはいけない」

 臨床心理士の女性がこう話した。

 「小学校高学年くらいの子を持つお母さんが『うちの子がうそをついた』って深刻な顔で相談してくることがあるんです。そういうお母さんに、私はよく言うんです。『お母さん、子どもは、困ったときにつじつまの合わないうそを後先考えずに言ってしまうことなんて、普通のことですよ』って」

 私が「西山さんが、やってもいないことを『やった』と言ってしまったことも…」と言いかけたところで、彼女が「あり得ると思います」と答えた。

 小出君は「医者と弁護士とジャーナリストが力を合わせれば、できると思う。いや、これは絶対にやらなくちゃいけない。そう思う」と力を込めた。

 それから、およそ一カ月。「私は殺ろしていません」。障害の特徴でもある字余りの「ろ」を残す見だしで、角記者の署名記事を掲載。報道から七カ月後の一七年末、大阪高裁は実に八度目となる裁判で、初めて、自然死の可能性と自白が誘導された疑いを認め、再審開始を決定した。

 冤罪を解くために、裁判官も「個」が問われ、そのつながりが求められることは、私たち記者と同じなのではないだろうか。裁判長と二人の陪席の中で、一人でも消極的になれば、再審開始決定という、とてつもなく困難な挑戦に向き合うことはできなかっただろう。三人の裁判官には心から敬意を表したい。

 西山さんの手紙の真実が多くの壁を越え、さまざまな「個」と「個」をつなぎ合わせていった気がする。

 (編集委員・秦融)

 

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