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南海トラフ80%の内幕(6)主文から消える 小沢慧一(社会部)

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 南海トラフ地震について、他の地震と同じ算出法での確率も示し、「低い確率を正直に出すべきだ」と訴えた地震学者らの主張は、国の予算獲得や防災意識の低下の懸念を理由に高確率を維持すべきだという防災学者らの主張に押し切られた。その焦点になったのは「公表」の仕方だった。

 二〇一二年十二月と翌年二月に相次いで開かれた合同部会では、地震学と防災学の研究者・識者が協議。公表の仕方を巡り、記者会見の発表資料となる文書の「主文」で、高確率と低確率の扱いをどうするか、が問題になった。

 南海トラフ地震の高確率は、同地震だけに当てはまる「時間予測モデル」の計算式に基づく。だが、他の地域では採用されていないモデルということや、他地域と同じモデルで計算すると20%ほどになることは、評価文の「主文」でまったく触れていない。評価文の後段の説明文には一部記載があるものの、意図的な構成と疑われても仕方がないだろう。同モデルの信用性が揺らいでいる状況で、同モデルだけを主文で支持するような公表は、地震学者らにとって、科学者としての立場に関わる重大な攻防ラインだった。

◆提案を大幅に譲歩

 一二年末の合同部会。地震学者らの意見を海溝型分科会でとりまとめた事務局の吉田康宏地震調査管理官(当時)は(1)確率はやめる(2)低確率のみを示す(3)高低を併記、などという強気の提案をし、防災学者サイドの猛反発を受けた。

 反省を踏まえた一三年二月の合同部会。主文で(1)高低を併記(2)高確率を主に低確率を参考値で示す(3)低確率は出さない(=従来通り)(4)低確率は出さず高確率を参考値に格下げ−と、大幅譲歩した四案を示した。

 この際、地震学者らが避けたい(3)案について、「科学的な考え方から非常に問題がある」ともくぎを刺している。しかし、結論は(3)案になってしまった。

 議事録では誰の発言か不明だが、当初は高低の確率を併記する案((1)と(2))が有力だった。

 「同時併記に、それほど問題はない。かなり高いという話と、かなり低いもある。対策の目標は、高いを前提にして対策を(という)説得の仕方で問題ない」

 「(高確率の)時間予測モデルだけにこだわっていたら、検討すべき課題、方向を見失ってしまう可能性がある。今後の研究や科学の方向とずれてきてしまう。(低確率は)どうしても発表する必要がある」

 「記者だったら絶対突っ込んでくる話。(低い方を)隠すことはできない」

 従来通りの(3)案は圧倒的に不利だったが、予算獲得とリンクする確率の重要性を説く委員が「絶対に案(3)です。多数決で決まってしまったら仕方がないですけど、拒否権を行使できるのであれば拒否します」と強く訴え、潮目が変わる。

 同調者が現れ、その理由をこう説明した。

 「今後、近いうちに新たな成果が出てきて見直したときに、また更新を迫られる可能性があります。あまりころころ変わったんでは、国民はたまったものじゃない。唐突に10〜20%程度に変わる印象を与えていいか、私は懐疑的。サイエンスとしてももう少し研究をやってもらいたい」

 少数でも声の大きさが話し合いの流れを変えることはどんな会議でもままあるが、議事録を読む限り、そんな印象を受ける。

◆時間稼ぐための案

 「いきなりこれ(低確率)を公式の成果発表で出したら、やっぱりびっくりします」

 「次までに科学記者にしっかりとレクチャーして、科学面で地震学の最先端ということでいろいろ取り上げてもらって、外堀をどんどん埋めていくということが多分大事。その時間を稼ぐとなると(3)かな」

 「(3)にしちゃうと、必要な情報が抜けちゃう可能性があるかなという心配はします。気持ちは半分半分」

 20%の数値を説明文にすら入れることに否定的な委員もいる。「案(3)で結構ですが説明文のほうには、確率はこんなに下がるんですねと。それが(新聞の)見出しにとられますよということを覚悟しておいてくださいね」と捨てぜりふのような発言でほぼ大勢が決まった。司会者らしき発言者が議論に終止符を打つ。

 「今日の濃密な議論で、四つ示された原案の中では案(3)が一番現時点においては適切であろうという判断を下したというふうなことを議事録に書きとどめておいてください」

 地震学者らが求めた南海トラフの発生確率の両論併記、その背景、議論の経緯は、こうして主文から完全に消えていった。

 

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