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南海トラフ80%の内幕(4)変更への反発 小沢慧一(社会部)

「まずお金を取らないと」。議事録には、発生確率80%を下げることへの反対意見で飛び出した、生々しい言葉が残る

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 南海トラフの「70〜80%」という発生確率に対し、多くの地震研究者たちが「信頼性が低い」「科学的におかしい」と訴えているにもかかわらず、なぜ二〇一三年の評価文ではそのまま公表されたのか。巨大地震の予測を検討する専門家会議(海溝型分科会)の議事録で発言している研究者たちに聞くことにした。

 発言者が黒塗りになっているため、誰が何を話したかははっきりしていないが、議事録を読む限り、ほとんどの研究者が、時間予測モデルを使った「70〜80%」という高い確率だけを出すことに強い抵抗を示していた。

◆公表を押し切られる

 電話をかけた相手は全部で十七人。委員もいれば、事務局の職員もいた。「とうとうこの話を聞きに来ましたか」と観念したような口ぶりの大学教授もいれば、「その話はあまり触れたくない」とコメントを渋る研究者もいた。だが、ことの重大性からだろうか、一部の取材拒否を除いて多くの人が重い口を開きながら、科学的な根拠が希薄なことを認め、高い確率のみの公表で押し切られた経緯、じくじたる思いを口にした。

 そのうちの一人、京都大防災研究所の橋本学教授(現所長)は「地震調査の評価は科学のみに基づくべきだった。専門家ばかりの会議ならそれが当たり前。現実は科学をゆがめる結果になった。大失敗だ」と率直に、かつ苦々しく振り返った。

 議事録とは別に入手した資料によると、橋本教授は委員間で回覧したメールでも南海トラフの確率の高い方だけを公表することに対し、事前にこう警告している。

 「『現時点の知見に基づいて計算すると確率が下がる』という事実を隠すことは、やってはいけないことです。したがって、『従前の確率計算の考え方(時間予測モデル)には問題があり、このメンバーで議論した結果、これこれの考え方に基づいて計算した。その結果は下がることとなった』と正直に述べるべきだと思います。この点に触れずに発表した場合、いずれ誰かが計算し、『情報を隠した』と大騒ぎになること必定です。その際の信頼の喪失は致命的と考えます」

 それがなぜ、通らなかったのか。「防災の観点から、確率が下がるのは困る、ということになった」と橋本教授は経緯を明かした。

 再び、議事録をつぶさに調べてみた。

 巨大地震の「三十年発生確率」の決定は、文部科学相を本部長とする地震調査研究推進本部の傘下に地震発生の「予測」を担当する地震調査委員会が、委員の学者間で議論し、発表する仕組みだ。だが、このときは地震調査委側の要請で「防災」を担当する政策委員会にも意見を聴いた。

 南海トラフ地震にだけ高確率が出る時間予測モデルを使うことへの反対は二〇一二年十一月、地震調査委の中にある専門家会議の一つで、原案を作る海溝型分科会で噴出。いったんは、他の地震と確率の算出方法を統一した結果の「8〜20%」と、従来の高い確率とを両論併記する案で固まった。その後、政策委側の委員会に地震調査委側の委員が出席し「防災意識の低下や数値の変動による混乱のおそれがある」とデメリットを補足した上で提案。しかし、政策委側の猛反発を受けることになった。その中で「われわれ防災行政を預かっている者」というある委員の発言が目に留まった。

◆「水増し」が不可欠に

 「南海トラフは備えを急がなければならない。(防災の)理解を得るためには発生確率が高い(方がいい)ということ。下げると『税金を優先的に投入して対策を練る必要はない』『優先順位はもっと下げてもいい』と集中砲火を浴びる」

 同一人物とみられる委員はたたみかけるように、こう訴えた。

 「何かを動かすというときにはまずお金を取らないと動かないんです。これを必死でやっているところに、こんな(確率を下げる)ことを言われちゃったら根底から覆る」

 地震研究者たちからの提案は、防災学の側から激しい反発を受けることになってしまった。

       ◇

 地震調査委員会が、南海トラフ地震の発生確率を「70%程度」から「70〜80%」に変更した昨年二月、識者から「水増し」「えこひいき」との指摘があった。入手した専門家会議の議事録には「科学的根拠がない」との批判が続出していたことが判明。確率が独り歩きする背景を探った。

 

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