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南海トラフ80%の内幕(3)18年前の会議  小沢慧一(社会部)

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 南海トラフの確率「80%」を割り出した算出方法「時間予測モデル」は、地震研究者による「海溝型分科会」で批判の的になった。

 「全国地震動予測地図で南海トラフだけ時間予測モデルを使っていることはおかしい。確かにそこだけ赤くなる(=高確率を示す)が、本当にそれが科学的に正しいのかということをきちんと見直す必要がある」

 こんな発言も出てくる。

 「前回の(確率)評価が出たのが二〇〇一年で、文献を調べたら、〇二年にパークフィールド(米国)の地震をもって時間予測モデルが破綻しているという論文が(科学誌の)ネイチャーに出ていた」

◆1地点のデータのみ

 反対意見では「一カ所の上下変動量だけで時間を決めることは無理である」と、同モデルが室津港(高知県室戸市)での観測データだけで、日本列島の広大な範囲に及ぶ地震の発生を予測していることへの批判が噴出。〇一年の評価文の中で「信頼性が低いと判断した」との表記があることも明らかにされ、委員からは「時間予測モデルでぴったりくるのは室津港だけで、それ以外のデータは合わないと前回の評価文に書いてある」との指摘も出た。

 十八年前、すでに信頼性が疑われていながら、なぜ採用されたのか。モデルの来歴と、採用のいきさつを調べる必要があった。

 同モデルは一九八〇年、島崎邦彦東京大名誉教授が提唱。〇一年当時の前回評価のときには、地震調査委員会長期評価部会長として、同モデルの採用に影響力のある要職だった。島崎氏本人に直接聞くことにした。

 議事録に島崎氏と思われる人物が「はじめは(その他の地震と同じ)更新過程(単純平均モデル)を考えていた。それがいくつかの理由で時間予測モデルの方がよいという要素があり、主従が逆転してしまった」と発言していた。なぜ「主」に逆転したのか、経緯を知りたかった。

 メールでの取材に応じた島崎氏は「これは小生の発言です」と認めた上で「時間予測モデルの提唱者として、中立的な取り扱いに努めました」と回答。採用の経緯は「安藤委員が時間予測モデルを使うべきだと言われました。その提案に従って(略)最終的に採用されたというのが実情です」と回答した。

 名指しされた安藤雅孝静岡大客員教授は「自分が時間予測モデルを強く推した記憶はない」と断った上で「規模を大きめにし、次までの期間も短くしとけば無難だろう、ということはあったと思う」と、会議の空気を明かした。

 〇一年当時の地震調査委員長で、評価文の最終責任者だった津村建四朗氏(〇六年に委員長退任、現地震予知総合研究振興会副首席主任研究員)にも当たった。津村氏は「時間予測モデルを導入させたのは私です」と率直に認め、経緯をこう語った。

 「原案は『二十一世紀中に起きる可能性が高い』だった。しかし、南海トラフの歴史上、短いと約九十年で発生し、その段階では六十年近くたっていた。『この程度じゃ、防災につながらない。もっと切迫性を表現しないと』と思った」。津村氏は、時間予測モデルを使うと発生が二〇三四年になることに着目。「検討時、モデルは既に有名になっていたし、切迫性のある結果が出ると考えた」と明かした。時間予測モデルに通じる「大きな地震の後は次までの間隔が長く、小さいと間隔が短い」という学説は戦前からあり、津村氏も当時はその影響を受けていた、という。驚いたのは、安藤、津村両氏とも、時間予測モデルを今は全く信頼していないことだ。

◆「科学としてまずい」

 安藤氏は「時間予測モデルは意味がない。室津港の一カ所のデータで南海トラフ地震全体を説明するのは、やりすぎ。いろんな人が言ってますよ。なのに、一三年の第二版は強引に(確率が)大きくなってしまっている。非常に誤解を与えるし、科学としてまずい」。津村氏も「まさか今でも同じモデルを使っているとは思いませんでした。仮に私が今委員長だったら、採用しない可能性がありますね」。

 では、なぜ一三年の第二版で地震学者らの猛反対にもかかわらず採用されてしまったのか。その答えが、議事録にあった。

       ◇

 地震調査委員会が、南海トラフ地震の発生確率を「70%程度」から「70〜80%」に変更した昨年二月、識者から「水増し」「えこひいき」との指摘があった。入手した専門家会議の議事録には「科学的根拠がない」との批判が続出していたことが判明。確率が独り歩きする背景を探った。

 <時間予測モデル> 過去の地震の時期と規模(地盤の隆起)から次を予測。南海トラフ地震で は地震調査委員会が、宝永(1707年、1・8メートル)、安政南海(1854年、1・2メートル)、昭和南海(1946年、1・15メートル)から2034年と試算している。

 

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