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「特攻」のメカニズム2(4)勇士の反逆 加藤拓(地方部)

 特攻の隊員は当初からえりすぐりの優秀なパイロットだった。軍神と化し、隊員募集の広告塔になる使命も帯びていたからだ。だが、優秀な技能者ゆえの反発もあった。軍上層の保身のために禁じ手の作戦で戦況の悪化を粉飾する「破滅のメカニズム」とのせめぎ合いにスポットを当てた。

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 組織の論理が優先され、末端で懸命に生きる人たちがないがしろにされる光景に昨今、事欠かない。死に赴く若者を「軍神」とあがめ、戦況悪化から国民の目をそらす役割を担わされた特攻も、生還した隊員に向けられた不条理はそれと同じだった。

 鴻上尚史さんの「不死身の特攻兵」(講談社、二〇一七年)で知られる陸軍万朶(ばんだ)隊の伍長、佐々木友次さん(一九二三〜二〇一六年)に、体当たりを強要し続けた上官の参謀たちへの思いを聞いたことがある。佐々木さんは怒りを示すこともなく「まあ、参謀なんてそんなもんでしょう」と冷めた口調で言った。

◆生還隊員に銃殺命令

 佐々木さんが大型船を沈めた六回目の出撃で、軍が「戦死」と誤報。それによって、天皇からの金鵄(きんし)勲章の授与が決まってしまった経緯を振り返り、「天皇陛下の耳に達したなんて聞いたら、正直に申告して訂正するより、私に死んでもらおうとするでしょうね」。そこには組織のメンツと管理職の保身しかないことを見抜いての言葉だった。

 「実際、その後でフィリピンの山中にいる間に銃殺命令が出ていたなんて、後で聞きましたしね」

 佐々木さんが所属していた陸軍の第四航空(四航)軍による佐々木さんの暗殺計画は、陸軍の報道班員だった高木俊朗氏の著書「陸軍特別攻撃隊 上・下巻」(一九七四、七五年、文芸春秋)で読んでいたが、本人から直接聞いたのはこの時が初めてだった。佐々木さんは、暗殺指令を耳にした経緯を同書で詳細に語っており「高木さんに話した内容がすべて」と私に語った。その同書によると、佐々木さんが年上の新聞記者から暗殺計画を聞かされたのは敗戦後、マニラ南方の収容所にいた時だった。

 記者「佐々木、おまえ、殺されることになっていたのを知っているか」

 佐々木さん「何度も猿渡参謀長(篤孝、第四飛行師団参謀長=大佐)から体当たりしろ、と言われましたよ」

 記者「そうじゃない。四航軍は佐々木伍長と津田少尉(昌男、一九二三〜八三年)の銃殺命令を出していた」

 佐々木さん「どうして銃殺にするんですか」

 記者「大本営発表で死んだのが、生きていてはこまるからさ」

 佐々木さん「そんな命令を、どこで出したんですか」

 記者「四航軍さ。佐々木、津田を、わからないように殺すために、狙撃隊までつくっていた」

 実行されなかったのは、地上勤務隊が「特攻隊員の狙撃命令を出すとは何事か」と反発し、応戦する構えを見せたからという。

 特攻を担った四航軍は司令官−参謀長−参謀−飛行隊長−隊員、の構成。佐々木さんは司令官の富永恭次中将(一八九二〜一九六〇年)が暗殺を指示したとは思っていなかった。「私はどちらかというと富永さんに好感を持っているんですよね。最後に出撃した時には軍刀を振り回しながら『佐々木、頑張れ』なんて激励されましたよ」。富永中将はこのとき既に無断で台湾に引き揚げたといわれ、指揮系統は混乱していた可能性がある。真相はやぶの中だ。

 佐々木さんは、万朶隊の隊長、岩本益臣大尉=当時(27)、戦死=の「敵艦に爆弾を命中させて帰ってこい。そして、何度でも出撃するんだ」という訓示に従った。その行動に、暗殺の対象になった津田少尉も共感してくれたことを私に打ち明けた。

 「士官学校出身の特攻隊長だった若桜隊の津田さんとは、同じ大正十二年生まれということで割と気が合ってね。宿舎で会った時に『戦艦を沈めたのは本当か』なんて話しかけてきて、『体当たりしなくても、敵艦を沈めれば文句ないでしょう』って言ったら納得してくれてね。結局、彼もその後、出撃したんだけど、フィリピンで生き残りましたね」

◆小さな全体主義横行

 職人かたぎが尊ばれ、技術を培う精神に価値を置くのは、この国古来の伝統だった。岩本大尉や佐々木さんらの行動はこの国伝来の精神を大切にしたにすぎない。人を部品や消耗品のように扱う倒錯した特攻の発想は戦時下の異常な事態がもたらした、と片付ける人もいるだろうが、本当にそうだろうか。

 職場では立場の弱い人に「ブラックバイト」「派遣切り」「サービス残業」などさまざまな理不尽が降りかかり、○○ファースト(第一)と掲げた組織がファーストのはずの「アスリート」や「芸人」をないがしろにする。「小さな全体主義」とでもいうべき、戦後七十四年のそんな風景に、特攻のメカニズムが透けているような気がしてならない。 =おわり

 

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