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「特攻」のメカニズム2(3)勇士の反逆 加藤拓(地方部)

関大尉の特攻を報じる昭和19年10月29日の中部日本新聞(現中日新聞)

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 敗色が濃い中で飛び込んだ「大本営発表」を紙面にする制作現場の興奮が伝わってくるようだった。

 一面に大見出しで「神風特別攻撃隊相つぐ出撃」とあり、特攻の成功を告げる「必死必中」の文字が躍る。だが、私の目をくぎ付けにしたのは、むしろ特攻を行った敷島隊の隊長、関行男大尉=当時(23)、戦死=の出撃前の様子を伝える記事だった。

 現地への特派員による【比島方面前線基地小野田報道班員二十八日発】との署名入りで、「率先神風隊に志願」との見出しがあり、記事中には「関大尉の横顔を出撃の朝まで基地で親しく仰いだ記者は見たまま感じたまま…」と記すくだりもある。それが、「見たまま感じたまま」の全てではなかったことを、報道班員の小野田政さんは後に回想録「神風特攻隊出撃の日」(今日の話題社、一九七一年)で告白している。

 同書によると、出撃基地に近いフィリピン・バンバン川のほとりで関大尉はこう語った。

◆「KAのために行く」

 「報道班員、日本もおしまいだよ。ぼくのような優秀なパイロットを殺すなんて。ぼくなら体当たりせずとも敵母艦の飛行甲板に五十番(五百キロ爆弾)を命中させる自信がある」「ぼくは天皇陛下のためとか、日本帝国のためとかで行くんじゃない。最愛のKA(海軍用語で妻のこと)のために行くんだ。命令とあらば止(や)むをえない。日本が敗(ま)けたら、KAがアメ公(米国人)に強姦(ごうかん)されるかもしれない。ぼくは彼女を護(まも)るために死ぬんだ。最愛の者のために死ぬ。どうだすばらしいだろう!」

 関大尉は新婚六カ月目。「海軍兵学校出身者が指揮を執らないと、士気は上がらない」という理由で、隊長に指名された。

 陸軍の特攻隊万朶(ばんだ)隊の隊長岩本益臣大尉=当時(27)、戦死=が爆弾を切り離せるように改装し「何度でも帰ってこい」と訓示し、佐々木友次さん(一九二三〜二〇一六年)が訓示を実践した。それに対し、関大尉は隊長として特攻を決行をした。だが、培った操縦技術を無駄にする体当たり攻撃に意味を見いだせないのは、同じだった。

新聞で報道班員の小野田さんが伝えた関大尉の「志願」。実際に語った本音は違った=同年10月30日の中部日本新聞

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 小野田報道班員に語った関大尉の言葉で目を引くのは「ぼくのような優秀なパイロットを殺すなんて」というくだり。技術や技能を無視し、貴重な機体や類いまれな技能者を消耗品扱いする愚かさへの深い失望が読み取れる。

 資源、人口、予算規模など国力の指標のほとんどで劣る国が対等を目指す上で欠かせない技術力と人材をないがしろにし、破滅への道を転落していったのが、七十五年前の日本だった。だが、それを過去の愚かな出来事として笑い飛ばすことができるだろうか。

 産業界で続発する検査不正は技術軽視の典型だろう。業績悪化を取り繕う「見せ掛けの数字」を現場に押しつけ、モノづくりの生命線である技術への信用を失墜させるさまざまな企業の検査不正を私たちは何度も目の当たりにしてきた。

◆理不尽押しつけ今も

 政治は二流でも経済は一流、と言われたのがすでに過去の話であるように、優秀と自負してきたわが国の官僚中の官僚がそろう財務省で起きた文書改ざんに驚がくしたのは、まだ昨年のことだ。「不都合な真実」を取り繕う改ざんの強要に耐えがたいあまり、自死に追い込まれたのは職務に忠実で実直な近畿財務局の職員だった。この国が誇りとすべき「職人技」や「実直さ」が犠牲になる本末転倒がそこかしこで起きているのではないだろうか。

 一九四五年八月十五日の終戦を境に、日本の社会構造は過去の負の遺産を断ち切ったわけではない。価値観が倒錯し、筋の通らない理不尽を押しつける特攻のメカニズムは、姿を変えて戦後に引き継がれた、と私は思う。

 終戦から五カ月後に帰国し、郷里の北海道の実家に戻った佐々木さんが戸籍を復元するために赴いた役所で、復元の条件かのように、こう言われたという。

 「勲章と賜金を返してください。これはマッカーサー元帥の命令です」

 昨日まで敵だった支配者の威を借り、命懸けの功績を平然と否定する。何も変わらないどころか、鬼畜と呼んだ相手にこびるその卑屈さに、佐々木さんは嫌気が募った、という。

 「私は本来の爆撃機の任務を果たそうと思った。それだけなんだけどね」

 それが一体、誰にとってどんな不都合があったのか−。受話器の向こうの声は、そんな問い掛けのようにも聞こえた。

      ◇ 

 特攻の隊員は当初からえりすぐりの優秀なパイロットだった。軍神と化し、隊員募集の広告塔になる使命も帯びていたからだ。だが、優秀な技能者ゆえの反発もあった。軍上層の保身のために禁じ手の作戦で戦況の悪化を粉飾する「破滅のメカニズム」とのせめぎ合いにスポットを当てた。

 

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