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「特攻」のメカニズム2(2)勇士の反逆 加藤拓(地方部)

佐々木さんが「遂(つい)に体当り」と報じる昭和19年12月9日の中部日本新聞(現中日新聞)。軍の誤発表とみられる

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 特攻隊ながら、戦果を上げ生きて帰還する信条を貫いた元日本陸軍伍長、佐々木友次さん(一九二三〜二〇一六年)が心の支えにしていたのは岩本益臣大尉=当時(27)、戦死=から出撃時に受けた訓示だった。

 佐々木さんはまるで昨日のことのように訓示を電話口でそらんじた。

 「敵艦に爆弾を命中させて帰ってこい。そして、何度でも出撃するんだ」

 岩本大尉は、陸軍初の特攻隊として終戦前年の四四(昭和十九)年十月二十一日、茨城県の鉾田飛行場で編成され、佐々木さんが所属した万朶(ばんだ)隊十六人の隊長だった。

 低空飛行から爆弾を切り離し、水面を跳ねて命中させる高度な爆撃技術「跳飛爆撃」の第一人者として知られ、もともと特攻隊に反対だった。隊長に任命されると、投下できないようになっていた爆弾を落とせるように改装。それを隊員たちに伝えた上で訓示したという。

◆「軍神」の目的化拒む

 優れた技能を持つ歴戦の勇士には、戦死して「軍神」になることが目的化した特攻が耐えがたかったのだろう。訓示を守り抜いた佐々木さんも同じだった。上層部とのあつれきを聞くと「高木さんの著書の通りだから読んでください。高木さんは何週間もうちに泊まり込んで聞いていったよ」と笑いながらそう話した。

 菊池寛賞を受賞した高木俊朗氏の著書「陸軍特別攻撃隊 上・下巻」(一九七四、七五年、文芸春秋)から九回の出撃を再現すると、こうだ。

 陸軍最初の出撃になる一回目(四四年十一月十二日)は爆弾投下に失敗し不時着したが、誤って「戦艦に突入し撃沈」との一報が司令部に入り、東京の大本営でも戦死と発表された。

 基地に戻った佐々木さんに、作戦を担当する参謀の一人が「ご苦労だった。不時着したことは軍司令部では分からなかったから、大本営には突入と報告した。このことを肝に銘じて次の攻撃では本当に戦艦を沈めてもらいたい」と暗に死を求められた。郷里の北海道当別村(現当別町)の実家にはすでに弔問の客が来ていた、という。

 二回目は僚機を見失いやむなく帰還、四回目に赴く時は参謀長(大佐)が直々に「突入は(護衛機として戦果も確認する)直掩(ちょくえん)機が必ず確認することになっている。晴れの舞台だから、立派に体当たりするんだ」、作戦参謀(中佐)から「期待するのは敵艦撃沈の大戦果を爆撃でなく、体当たり攻撃によって上げることである。佐々木伍長はただ敵艦を撃沈すればよいと考えているが、それは考え違いである」と言い含められた。

 しかし、佐々木さんは「私は必中攻撃でも死ななくてもいいと思います。その代わり死ぬまで何度も行って爆弾を命中させます」と反論したが、参謀長は「佐々木の考えは分かるが軍の責任ということがある。今度は必ず死んでもらう。いいな」と念を押した。

 四回目は直掩機が引き返したため佐々木さんも帰還。五回目は米軍戦闘機の編隊に出くわし、回避した。

 六回目の命令を受けた佐々木さんは極度の疲労で休養を求めたが、参謀長に「絶対に許さんぞ。すぐに出発しろ。目標はレイテ湾で、船はどれでもいい。見つけ次第突っ込め。今度帰ったら承知せんぞ」と突っぱねられ、出撃。大型船に爆弾を命中させて撃沈し、帰還した。

 ところが、この時、再び大本営が戦死と誤って発表。天皇が武功のあった軍人に授ける金鵄(きんし)勲章の授与へと話が進んでしまい、大問題になった。生きて帰った佐々木さんに参謀長は「この臆病者。よくのめのめと帰ってきたな。貴様は特攻隊なのにふらふら帰ってくる。なぜ死なんのだ」とののしった。

 だが、当然のことながら、佐々木さんこそが爆撃機乗りのかがみだった。機体が不調の時や敵戦闘機の編隊に遭遇すれば巧みに回避し、千載一遇の好機と見るや的確に戦果を上げる。貴重な機体を無駄遣いせずに温存するのだから、国力の劣る軍隊の操縦士として理想と言っていい。

◆死なせるのが作戦に

 理想の勇士を消耗品扱いする作戦がまかり通ったのは、戦局悪化の責任を回避し、そのツケを前線の兵士に押しつける組織の論理でしかない。上層に向かうほど責任の所在が不明確になり、矛盾のしわ寄せが末端に押しつけられる。それは、今も変わらない日本型組織の特異性とも言えるだろう。

      ◇ 

 特攻の隊員は当初からえりすぐりの優秀なパイロットだった。軍神と化し、隊員募集の広告塔になる使命も帯びていたからだ。だが、優秀な技能者ゆえの反発もあった。軍上層の保身のために禁じ手の作戦で戦況の悪化を粉飾する「破滅のメカニズム」とのせめぎ合いにスポットを当てた。

 

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