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「特攻」のメカニズム2(1)勇士の反逆 加藤拓(地方部)

佐々木さんら陸軍特攻の出撃を伝える昭和19年11月14日の中部日本新聞(現中日新聞)の1面

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 後世に伝えられたままに、私たちが描く特攻のイメージは、爆弾を積んで敵艦に突っ込む、という至極単純なものだろう。

 実は、そうばかりではない。戦争末期でこそ、ろくに飛行訓練も受けないまま、学徒兵らが消耗品として特攻を強いられたが、もともと旧日本軍の飛行機乗りは「空中勤務者」とも呼ばれ、優れた操縦技術を持つ専門性の高いエリート集団だった。

◆何度も帰還した隊員

 厳しい訓練によって培った操縦技術を誇りにする彼らにとって、技術を生かすことなく、戦果よりもむしろ軍神としての戦死が使命の特攻は、受け入れがたい命令でもあった。そして、実際に、特攻隊員でありながら、出撃してはその類いまれな技術で敵艦に爆弾を投下し、何度も帰還した隊員もいた。

 「船はどれでもいい。見つけ次第、突っ込め。今度帰ったら、承知せんぞ!」

 一九四四(昭和十九)年十二月五日のフィリピン・カローカン飛行場。参謀長の大佐が大声を上げると、一人の特攻隊員が軽爆撃機で出発した。この隊員こそ、ベストセラーとなった鴻上尚史さんの「不死身の特攻兵」(講談社、二〇一七年)の主人公で、九回出撃しながら生きて帰ってきた陸軍万朶(ばんだ)隊の伍長、佐々木友次さん(一九二三〜二〇一六年)。六度目の出撃だった。

 <レイテ湾上空に来ると、無数の敵艦を発見。高射砲の弾幕で夕焼け空は曇り、高度千五百メートルから目標の大型船に向かって、角度六十度、時速四百五十キロで急降下した。全身がゆがむような重圧を感じながらも、二百〜三百メートルに近づいた時、鋼索を引いて投弾。目の前を黒いマストが通りすぎ、船の舷側を海面すれすれに抜けた後、振り向くと、大型船が傾いているのがはっきりと分かった。だが五日後、カローカンに戻ると、激高した参謀長の言葉にねぎらいはなく、ただ罵声を浴びせられただけで、佐々木さんは少しの反論も許されなかった。「レイテ湾には、敵戦艦はたくさんいたんだ。弾を落としたら、すぐに体当たりをしろ。出発前にそう言ったはずだ。貴様は名誉ある特攻隊だ。弾を落として帰るだけなら、特攻隊でなくてもいいんだ。貴様は特攻隊なのにふらふら帰ってくる。貴様は、なぜ死なんのだ!」>(「不死身の特攻兵」から抜粋)

 私が同書の主人公、佐々木さんに直接話をうかがったのは〇八年春のこと。逓信(ていしん)省乗員養成所時代の佐々木伍長の教え子だった元特攻隊員、久貫兼資さん(一九二六〜二〇一四年)から、佐々木さんがまだ北海道でご健在だと聞き、手紙を書いて取材を申し込んだ。待つこと半月ほど。返事がないので、聞いていた電話番号にかけてみると、すんなり佐々木さんが出た。

 「実は目が見えなくなってしまい、お返事も書けませんでした。そんな姿をお見せしたくないと思っていますが、お電話でしたらいいですよ」。爆撃機を自在に操り、米軍を苦しめた伝説から抱いたイメージとはほど遠く、物腰の柔らかい穏やかな声だった。

◆「完全な命令でした」

 特攻隊員になった経緯を聞いた。佐々木さんのような操縦技能を持つパイロットが、戦果を上げる機会が一度しかない特攻隊員に自ら志願するだろうか。時代が違うとはいえ、素朴な疑問があった。

 「完全な命令でした」

 佐々木さんは、そう明言した。

 戦争末期の四四年十月二十一日、陸軍が特攻隊のために茨城県の鉾田(ほこた)飛行場で編成した「万朶隊」十六人の中に佐々木さんの名前があった。陸軍が編成した最初の隊だった。

 「編成した当時は『フィリピンに異動する』と聞かされただけです。そもそも志願するかどうかも聞かれませんでした」。フィリピンに向かう途中、飛行機に爆弾を積んで、敵艦に体当たりする「特殊任務」だと告げられたという。

 大型船を沈めても、参謀から戦果をねぎらわれるどころか、「なぜ死なないのか」「特攻隊の恥だ」などとののしられたという佐々木さんに、「心の支えは、どこにあったのでしょうか」と尋ねてみた。

 少し考えた後、佐々木さんは言った。

 「やっぱり岩本隊長からの言葉ですかね」

 軽爆撃機操縦の第一人者だった岩本益臣大尉=当時(27)、戦死=は特攻に強く反対しながら、万朶隊を率いる命を受け陸軍初の特攻に赴くことになった。隊員への訓示で語られたのは、軍規違反にも等しい言葉だった。

     ◇ 

 特攻の隊員は当初からえりすぐりの優秀なパイロットだった。軍神と化し、隊員募集の広告塔になる使命も帯びていたからだ。だが、優秀な技能者ゆえの反発もあった。軍上層の保身のために禁じ手の作戦で戦況の悪化を粉飾する「破滅のメカニズム」とのせめぎ合いにスポットを当てた。

 

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