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琉球民族の遺骨返還問題(3)門前払い 深世古峻一(津島通信局=前京都支局)

 昭和初期、京都帝国大(現京大)の研究者が沖縄の墓から多数の人骨を持ち出した。九十年後、子孫らの返還の求めを京大は拒み続ける。アカデミズムとして今の時代にふさわしいのか。大日本帝国時代の沖縄統治、現代の米軍基地問題とも関連する問題の背景とあるべき道筋を考える。

琉球民族の遺骨返還を訴える松島泰勝教授=京都市伏見区で

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 門前払い、とはこのような対応をいうのだろう。

 二〇一七年五月。琉球民族遺骨返還研究会代表の松島泰勝さん(56)=龍谷大教授=は遺骨の保管状況や返還を申し入れるため、保管先とされる京都大総合博物館(京都市左京区)を訪ねた。

 窓口に指定された総務課が入る棟では、警備員に制止されて建物内に入れず、現れた中年の男性職員が外で応対した。職員は山極寿一学長に宛てた質問書を無言で受け取っただけ。「話ぐらい聞いてくれると思ったが、厳しいかもしれない」と先々を予感した。晴れ渡るキャンパスに響く学生の談笑する声。松島さんのシャツには冷や汗がべっとりとにじんだ。

 数カ月後、総務課から届いたのは文責者の名前もないわずか四行の回答文。「本件について、個別の問い合わせ・要望には応じかねます。つきましては、本件で本学を来訪することはご遠慮いただきたく存じます」。“来訪禁止”まで示す冷たいあしらい方に「人として見てくれていない」と松島さんが感じたのも無理はなかった。

◆やむを得ず京大提訴

 同年秋には再度、総務課へ要望するために京大を訪れたが、玄関ホールで男性警備員に入館を拒まれ、来訪者用に設けられている内線電話の使用すら許されなかった。仕方なく、自身の携帯電話で総務課へ電話した。「担当者がいない」と言われたため、「名刺交換だけでも」と依頼したが「その必要はない」と断られ、今回は職員すら目の前に現れなかった。「このままでは何も進まない」と悟った松島さんは一八年十二月、百按司(むむじゃな)墓の遺骨の返還などを求め、子孫らとともに京大を提訴した。

 主な争点は遺骨は子孫のものと示されている民法にのっとり、原告らが「祭司継承者」として百按司墓の遺骨の所有権を有しているかどうか。原告団は数年に一度、行われる今帰仁上り(なきじんぬぶい)と呼ばれる血縁者による墓地などの巡礼行事を根拠に、「百按司墓は主要な巡礼先であり、祭司継承者は絶えていない」と主張。京大側は「(京都帝国大助教授だった)金関丈夫氏が収集した当時の百按司墓は人骨が散乱していた」として、祭司継承者は絶えていたという見解を示す。また、遺骨を子孫の許可無く持ち去った金関氏の行為は「(県の許可など)諸般の手続きを行っており、盗掘ではない」と主張する。

 ことし五月十七日の公判には原告の一人で百按司墓の遺骨の子孫、玉城毅さん(69)=沖縄県うるま市=が出廷。「天皇の墓を開けることはしないが、琉球の王家や貴族の墓を開けて骨を盗んでも良いということは琉球を軽く見ているということで差別だ」と訴えた。

 一連の京大の対応には学内からも疑問の声が出ている。文化人類学者の男性教授は「旧植民地で採掘した遺骨は速やかに返還、埋葬するのが国際的なスタンダード。遺骨の返還に応じた台湾大の対応は国際的なトレンドに即している。京大の対応は異例で考えられない。自分たちが奪ったものを返さないとはどういう理屈なのか」と批判。別の文化人類学者は「遺骨の返還問題は教授会に全くあがっていない。恐らく学内の一部の人間だけで対応を決めているのだろう」と顔をしかめた。

◆不都合な先住民認定

 京大はなぜここまでかたくななのか。考えられるのは、政府の沖縄政策に沿って判断している可能性だろう。

 政府は先住民の遺骨返還の権利を含む「先住民族の権利に関する国連宣言」(〇七年)に基づき、アイヌ民族を先住民と認め、遺骨の返還政策を行おうとしている。沖縄での対応がダブルスタンダードに見えるのは、宣言が収奪した土地の返還や合意のない軍事活動の禁止を規定していることと無関係ではないだろう。宣言の対象になれば、辺野古の新基地建設問題にも波及しかねないからだ。

 遺骨の返還が、沖縄の人々をアイヌ民族と同じように「先住民」に位置付ける“口実”になることを恐れて京大が理不尽な対応をしているのであれば、見当違いも甚だしい。

 昨年三月、京大は「人類の幸福を脅かすことにつながる軍事研究は行わない」とする方針を示した。自らに求められるのが、政府への忖度(そんたく)ではなく、いち早く軍事との決別を宣言したアカデミズムとしての対応ではないのか。

 武力は使わずとも、価値観や文化を抑圧することは民族の誇りを大きく傷つける行為であることは言うまでもない。軍事との決別を口先だけに終わらせず、遺骨返還問題を「自分の立場に置き換えて考えてほしい」という松島さんの思いを、京大は真摯(しんし)に受け止めるべきだろう。

 

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