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西山美香さんの手紙・供述弱者を守れ 検察の思考回路(4) 角雄記(社会部=前大津支局)

 警察が無実の人を罪に陥れ、暴走したとき、止めるのが検察だ。だが、呼吸器事件では事実誤認、供述誘導が明白でもなお、一人の女性の人生を踏みにじり続ける。そこにある「正義」とは何なのか。検察の思考回路を分析する。

大阪高検の三浦守検事長(当時)の署名がある特別抗告申立書

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 「われわれの人生が懸かっているんだぞ!」

 ミサイルを迎撃する「イージス・アショア」を配備する地元説明会で、居眠りをしていた防衛省の職員に対して飛んだ、住民の怒号。再審に向け、大津地裁で六月十二日に開かれた裁判官、検察官、弁護人の二度目の三者協議に同席した西山美香さん(39)も、怒号の主と似た気持ちにさせられたのだろう。協議後の会見でこう言った。

 「何を考えているのか、よく分からなかった。はっきりとものを言えないあの検察官に、もう一回被告人と呼ばれるのは、腹立たしいです」

 三者協議の場に出てきた大阪高検公安部の飯浜岳検事と大津地検の斎藤一馬検事。非公開の場で、何があったのか。弁護団の説明によると、こうだ。

◆立証を弁護側に迫る

 前回の協議で裁判所は検察側に「再審開始決定で争点となった点(死因、供述の誘導など)について、どういう証拠で立証するのか、明らかにしてほしい」と要求していた。ところが今回、検察側は「この事件は検察が争点について明らかにするのは難しい。弁護側の意見を先に聞きたい」と言ったため、裁判所側も「えっ?」となった。

 裁判所 「それは筋違い。検察が先に明らかにしてほしい。二週間でできますか」

三浦守最高裁判事

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 検察官 「この場で言えない」

 裁判所 「仮に二週間過ぎたとしても、なるべく早く出してほしい」

 検察官 「最終的に出せないかもしれない」

 その様子に「あきれた」という弁護団長の井戸謙一弁護士(65)は「検察の全体の方針として有罪立証をすることになり、担当検事が苦慮しているのではないか」と印象を語った。同席した別の弁護士も「現場の検事は、有罪立証に乗り気ではないんじゃないか、と感じた。検事は上意下達が厳しいから、組織の方針に従うしかない。ある意味で気の毒」と言う。

 単に組織の歯車として出てくるのなら、冤罪(えんざい)を晴らすのに人生を懸けている西山さんに失礼であるばかりか、法律家として失格だろう。なぜ、そのようなことが起きているのか。

 元検事の郷原信郎弁護士(64)は「検事を辞めて弁護士に転じても、生計を立てるのが難しい」と指摘し、司法改革が弁護士過剰をもたらした時代背景があるとみる。

 「独立して食えない以上、組織の中で生き残っていくしかない。そう思っている検事が増えているのは確か。だから『有罪立証』の方針が上の方で先に決まってしまうと、水を差すようなことが言えないんですよ。法律家の良心に従って個々の検事が判断する検察本来のシステムが、機能しなくなっている」

 無責任な有罪立証のもとをさかのぼれば二〇一七年、最高裁への特別抗告にたどり着く。その申立書には大阪高検の三浦守検事長(当時)の署名がある。三浦氏はその二カ月後、最高裁の判事に就任。自ら行った特別抗告はことし三月、同僚判事三人に三くだり半の決定文で棄却された。さぞ、ばつが悪かったことだろう。なぜ、まともな判断ができなかったのか。

◆事なかれ主義の判断

 元検事の市川寛弁護士(53)は「世間的には『特別抗告するな』の判断がまっとうでも、特別抗告をしなかったら、検察庁では、あしき前例をつくった張本人になってしまう」という。郷原弁護士もトップとしての判断を「組織のメンツとか、事なかれ主義でしょう」と読む。

 郵便不正事件の冤罪被害者で、元厚生労働省事務次官の村木厚子さん(63)は「検察に限らず、組織を変えるには大変なエネルギーが要る。それにチャレンジする勇気が持てない時には、『自分一人が組織を裏切れない』と思い、どこかで『これは必要悪だ』と自分を納得させようとしてしまうのでしょう」と分析する。

 矛盾する内容に目をつぶり、一人の供述弱者の「人生」をなおも狂わせ、追い詰めるような判断が問われることはないのか。「『これ以上、被疑者・被告人を苦しめるな』と言えば止まったはず。署名した責任は重い」と特別抗告での対応を疑問視する元検事の国田武二郎弁護士(71)は、国民審査の対象でもある最高裁判事に任命された現実に目を向け、こう語る。

 「今回の経緯は、審査の参考資料に出てきてしかるべきでしょうね」

=おわり

 <呼吸器事件> 滋賀県の病院で2003年、植物状態の男性(72)が死亡。1年後、人工呼吸器の管を外した殺人容疑で当時24歳の看護助手西山美香さん(39)が逮捕され、懲役12年の判決で服役した。西山さんには軽度知的障害があり自白を誘導された疑いが判明、近く再審が始まる。

 

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