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西山美香さんの手紙・供述弱者を守れ 検察の思考回路(2) 角雄記(社会部=前大津支局)

 警察が無実の人を罪に陥れ、暴走したとき、止めるのが検察だ。だが、呼吸器事件では事実誤認、供述誘導が明白でもなお、一人の女性の人生を踏みにじり続ける。そこにある「正義」とは何なのか。検察の思考回路を分析する。

「検察は勝ち負けにこだわる」と指摘する村木厚子さん

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 「体育会系」という言葉にどんなイメージを持つだろうか。プラスの側面をとらえるなら、チームが一体となって切磋琢磨(せっさたくま)し、勝ち負けにこだわり、時には鉄の団結とも称される固い絆の組織だろう。反対に、マイナスにとらえると、上下関係が厳しく、上の言うことは絶対。疑問を差し挟まず、黙って従う、といったイメージだろうか。

 「有罪立証するってニュースで見て、びっくりしたんです。検察ってすごく体育会系の組織だって、あらためて思いましたね」

 そう語ったのは元厚生労働省事務次官の村木厚子さん(63)。検察が証拠のフロッピーディスクを書き換え、後に改ざんが判明した「郵便不正事件」で、大阪地検特捜部に逮捕、起訴された冤罪(えんざい)被害者として知られる。

 村木さんが見たというのは、呼吸器事件の再審で検察が西山美香さん(39)に対して「有罪」を主張する、との報道。取材前日の四月二十三日に、裁判官と検事、弁護士による再審公判の事前協議の場で、検察が通告し話題になっていた。事実上、元被告に無罪を言い渡す場になっている再審で、検察が有罪主張をするのは異例のケースといえる。

◆非常に閉鎖的な社会

 突然あらぬ罪を着せられ、無罪判決を勝ち取るまでの一年三カ月、検察との闘いを余儀なくされた村木さんから、ぽろりと出た「体育会系」という言葉は、もちろん、マイナス側のとらえ方。違反タックル事件を起こした日大アメフット部を引き合いに「非常に閉鎖的で、よく似ているなあと思いましたよ」。村木さんは、検察が引き返せない理由の一つに「勝ち負け」にこだわる特殊性を挙げる。

 「一般的な官庁には通常、『勝ち負け』はない。敵なんかいないし、いろんな立場の人の言い分を聞き、落としどころを考えるのが役所の仕事です。でも、同じ公務員でも検事の場合は弁護側との勝ち負けの構図になっていますよね。裁判用語だって、勝訴、敗訴ですし」

 いったん容疑者を「クロ」と判断して起訴すれば、ほとんど引き返すことをしない。その背景をこう解く。

 「検察は正義の味方で、相手は悪いことをした犯罪者だという構図が前提になっていて、はっきり言えば、マスコミの応援を受けながらやっている。社会的に大事な仕事をしている、という意識と国民の期待、信頼を裏切れないと思うから、素直に間違いを認められない。止まれないんですよね、検察は」

 スポーツならいざ知らず、大切なのは勝ち負けよりも真実であることは言うまでもない。いや、スポーツでさえ、時には勝負よりもフェアプレー精神が優先される。ところが、今の検察には証拠の改ざんだけでなく、証拠隠し、供述の誘導、真実を度外視したかのように徹底抗戦する姿勢に、不信の目が向けられる。検察内部の問題を自著「検事失格」で赤裸々につづった元検事の市川寛弁護士(53)は「私が現役の検事だった当時のことですが」と断った上で、こう明かす。

◆立証の困難さを競う

 「検事の自慢話は、基本的には自分が『いかに勝負したか』という話です。仮に十の証拠が必要な事件があったとして『俺は八の証拠で起訴したことがある』と誰かが言うと『いや俺は七でも勝負した』とか。反対に『俺はこういう無罪判決をもらった経験があるから気をつけろ』という助言を聞いた記憶は、ほとんどない」

 呼吸器事件で、私たちは検察の特別抗告申立書に書かれた「齟齬(そご)(=食い違い)がある」というフレーズに驚いた。呼吸器のチューブを「外れていた」と誤認したまま、司法解剖鑑定書が窒息死と判断した問題を指していた。間違いを認めながら自説を曲げない検察を象徴するような文言を、市川さんはこう評する。

 「初めて見るような文じゃないですね。負けそうになれば、こういう文言も書きます。負けそうだけれど、負けを認められない。頭では負けると分かっているけど、負けるわけにいかない。だから、苦し紛れで書くんでしょう」

 検察に「正義」への期待はあっても、それは「負けないこと」ではない。呼吸器事件で、この期に及んでの有罪主張に村木さんは言う。

 「負けて、『だめなことはだめ』って分かってもらわないとしょうがない。負けることで、彼らも勉強になるんですよ。私の時だって、負けなければ、あの事件から何にも学ぼうとしなかったでしょうから」

 <呼吸器事件> 滋賀県の病院で2003年、植物状態の男性(72)が死亡。1年後、人工呼吸器の管を外した殺人容疑で当時24歳の看護助手西山美香さん(39)が逮捕され、懲役12年の判決で服役した。西山さんには軽度知的障害があり自白を誘導された疑いが判明、近く再審が始まる。

 

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