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西山美香さんの手紙・供述弱者を守れ 検察の思考回路(1) 角雄記(社会部=前大津支局)

取材班のメンバーに、新しい職場が決まった喜びを伝える西山美香さんからのメッセージ(昨年12月18日)

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 「いつまで肩身の狭い思いをしなければいけないのですか?(略)最高裁は、いつ決定を出してくれるのですか?(略)私は、再審請求をやめようと、思っています」(二〇一八年十二月十五日)

 大阪高裁で一七年十二月二十日、待望の再審開始決定を受けた西山美香さん(39)から、こんな言葉を何度聞かされたことだろう。西山さんは時には私を問い詰める口調で、行き場のない怒りをぶつけてきた。ここに示したのは通信アプリに残された彼女の言葉そのままだ。

 高裁の決定から、最高裁で今年三月に再審開始が確定するまで一年三カ月。そんなにも待たされたのは、検察が高裁の決定を受け入れず、特別抗告し、意見書の提出に不要ともいえる時間をかけたからだ。その間も西山さんは不安にさいなまれた。

 「もう裁判するのに、疲れた。生きている意味がない」(一九年一月十一日)「なんかまだ不安になってくるの。裁判所から、結果がでないから」(一九年一月十二日)

 出所後、最初はコンビニのレジ係のバイトで社会復帰をスタートし、その後、ハローワークに通い続け、何社も面接試験を受けた。山あり谷ありの道中で、西山さんの足を「特別抗告」が引っ張り続けた。母令子さん(68)が同僚記者に送ったメールからは、不安定な娘の状況を案じる親の思いが伝わってくる。

 「気分の浮き沈みがあるのと、職安に何度も相談に行き、だいぶ仕事の事で焦っている様です」(一八年八月二十九日)「就職が早く決まり、落ち着いて日々送ってくれればと、親として願っています」(同十一月十五日)

◆社会復帰果たしたが

 昨年末、念願の社員としての採用にこぎつけた。これまで、本人も家族も気づいていなかった障害を、さまざまな葛藤を経て受け入れた末、障害者雇用で得ることができた職場だった。だが、不安な日々は今も続く。近く開かれる再審公判で有罪主張を検察が続けることになり、心待ちにしている無罪判決がさらに遠のいたからだ。一人の「供述弱者」を、組織をあげてこのように追い詰める必要があるのだろうか。

 本欄でも再三取り上げてきた通り、西山さんの有罪判決の根拠となった死亡患者の司法解剖鑑定書には「呼吸器のチューブが外れていた」との誤認があり、窒息死の有罪主張には決定的な矛盾がある。検察は、そこに「齟齬(そご)がある」(特別抗告申立書)とまで認めながら、あきらめない。これが、果たして「正義」と呼べるのか。私が理解に苦しむのは、この一点にある。

 その疑問を元検事たちにぶつけてみた。

 元検事の郷原信郎弁護士(64)は「検察は、自分たちがいったんクロだと言ったら、そのままクロで突っ走る」と明言。「有罪を主張する手段さえあれば、必ずそこに駒を進めるやり方。足利事件のDNA鑑定のように客観的に否定された場合か、法的な手段が見つからない、という特別なケース以外は引き返さない。今回のケースは『正しく立証していたら有罪になったはずで、それ(立証)をやり損なっただけだ』という考えでしょうね」と分析する。

 検察内部の問題を自著「検事失格」で赤裸々につづった元検事の市川寛弁護士(53)は「『検察庁の起訴に間違いはない』という幻想を信じているのが前提ですよ。なかなか『起訴そのものが悪かった』という結論を出さない」と言う。「再審はなおさらで、確定判決は絶対に崩してはいけない、目をつぶって墨守するしかない、それが正義なんだ、と考える。ほかの再審請求事件での対応を見ても、それ以外の理由では説明がつかない」と解説した。

◆起訴後フリーズ状態

 墨守とは中国の故事に由来し、自説をかたくなに曲げないこと。検察の頭の中は、十五年前の〇四年七月の起訴の時点から「有罪」でフリーズした状態にある。

 起訴後の有罪率が99・9%の中で「検察には起訴した事件が無罪になることは大変な衝撃ですよ」と元検事の国田武二郎弁護士(71)は言う。「最高裁で確定したのになんでやり直しするのだと。『俺たちが事件のことを一番よく知っている、自信を持って起訴して有罪になったのに』という考えだろう」。特別抗告、再審での有罪立証に対し、こう苦言を呈する。

 「検察はもっと謙虚であるべきだ。素直な気持ちで事件を見直す勇気が必要だ」

      ◇

 いったん「クロ」と決めて起訴したら、止まらない。とても正常とは思えない「正義」への固執はどこから来るのか。特異にも映るその精神構造を読み解きたい。

 

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