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大阪地裁・高裁の車いす差別 三浦耕喜(生活部)

障害者の権利を訴える訴訟には、多くの車いすに乗る障害者も参加する=大阪地裁前で

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 裁判所は法律を武器に強きをくじき、弱きを助ける。多くの人はそう思っているのではないか。だが、それはウブな幻想なのかもしれない。文字通り弱きを「なぶりもの」にし、抗議文は口先であしらい、二度、三度と踏み付ける。これが司法の場であっていいのかという場面を、大阪地裁・高裁で私は見ている。

 まずは、昨年十一月二十九日に本紙が報じた内容を振り返りたい。一昨年六月に仙台地裁で被告が刃物を振り回し、警察官に切りつける事件が起きた後、全国の裁判所で入庁者への所持品検査が導入されることになった。大阪地裁・高裁も、昨年の初めから検査を始めた。折しも、大阪地裁では障害者の代筆投票をめぐる裁判など、障害者の人権をめぐる複数の裁判が進行していた。車いすでの傍聴も多いのは予測できた。

◆金属探知機を通れず

 だが、裁判所は準備不足だった。例えば金属探知。車いすでは装置を通れないので、警備員が手で触ってチェックする。性別はお構いなし。男性の警備員が女性の体を触っている。「明らかなセクハラだ」。同行した男性障害者は目を疑った。その彼も断りもなくカバンを開けられ、下着を衆目にさらされた。「人間として扱われなかった」。そう感じたという。

 電動車いすは、ねじなどが緩みやすい。そのため、調整したり修理するドライバーなどの工具を持ち合わせている。それを「武器にもなる」という理由で取り上げられた。障害者は自分の障害に合わせて改良した食事道具を携帯しているが、それを直前に他人の土足をチェックした手でもみしだかれた。不衛生極まりない行為だった。いずれも当事者にとって、大げさではなく、命に関わることだ。

 引っ張り出した荷物も元の場所に戻さなかった。動きが制約される障害者は物がいつもの場所にないと、取り出す時にヘルパーらに指示できない。問答無用の行為は、知識がなかったからだろうが、それでは済まない話だと思う。

 取材に来た私も途中から現場に居合わせた。私も病でつえに頼る身。車いすとなってそんなことをされたらと思い、背筋が寒くなる。誰にとっても人ごとではないのではないか。

 障害者らは昨年十一月十五日、手荷物検査が車いす差別だと、抗議と改善を文書で申し入れ、「文書にての回答」を求めた。「文書にすることで、裁判所の各部署で事例を共有し、今後も教訓を引き継ぐ」。中心となった中田泰博さん(46)はそう期待した。だが、その願いは破られた。回答日に裁判所は記者を閉め出した部屋で、中田さんたちに告げた。「回答は口頭で行う」と。なぜと問うと、「口頭が相当と判断したから」の繰り返し。中田さんらは回答を聞かずに退席した。

◆抗議に不誠実な回答

 今年一月十七日に再び訪れた時も落胆させられた。今度は裁判所側は「メモ」を用意した。だが「文書ではない」との姿勢は不変だ。「メモ」なるA4の一枚紙には、文書の発信元も宛先も日付も記されていない。「決裁した責任者も分からない怪文書」(中田さん)だった。二時間以上の押し問答の末、「メモ」を読み上げる形で裁判所は「口頭での回答」を強行した。

 メモも一見、非を認めているようで、男性警備員が女性に触る「セクハラ」には一切触れていない。先月二十日、私も男性警備員が車いすに乗った高齢の女性をチェックする場面に出くわした。

 抗議前は警備員が立って障害者を見下ろしていたそうだが、ホストのように片膝を床につき、「確認させていただいてもよろしいですか?」と、物腰柔らかに衣服の表面に触れる程度のソフトタッチを続けた。車いすのおばあさんが脅威になるどんな場面を想定しているのか? 滑稽にさえ思えた。

 中田さんらは訴える。「対応が適切かは障害者本人に聞くのが肝要。障害も人によって事情は違う。それに応じ異なる対応をするのが『合理的配慮』だ」と。

 情報公開に詳しい村上裕章九州大教授は「裁判所も国民への説明責任を負うのは当然だ。問題とされている車いすの障害者による裁判の傍聴は、憲法八二条に定める『裁判の公開』に関わる重要問題で、説明責任はいっそう重い」と言う。

 公文書管理の在り方を研究する桑原英明中京大教授も「公文書は失敗も含めた過去の知恵を未来につなぐ国民との共有財産だ。これがないと、また同じミスを繰り返すことになる。その自覚が不足しているのではないか」と話している。

 現在、国は「国民とともにある司法を確立する」(首相官邸ホームページ)との目標を掲げる。「メモ」をめぐり説明にならぬ説明を繰り返し、取材でも「回答を控えたい」としか応じない態度では、国民の信頼は到底得られまい。

 

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