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MONDAY経済

畜産業、容赦なき自由化 日米貿易協定発効

牛の世話に汗を流す岸上株久さん=愛知県田原市赤羽根町で

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 米国産の農産物にかかる関税を引き下げる日米貿易協定が一日に発効した。牛肉や豚肉などが段階的に安く輸入されるようになり、価格が下がって消費者は恩恵を受けるが、国内農家は米国産との激しい競争にさらされる。政府も支援策を繰り出すが、効果は限定的とみられる。容赦なく押し寄せる自由化の波を受け、農家自らが経営努力で生き残りを図る必要性にも迫られている。

◆競争激化

 「味は米国産に負けていない。だけど、うちのような農家が一番、打撃を受けるだろう」。白黒模様の牛が静かに飼料をはむ畜舎で、岸上牧場(愛知県田原市)の三代目岸上株久(もとひさ)さん(36)は、危機感を語った。

 去勢した雄の乳用種(ホルスタイン)を五百頭以上育て、食肉用として出荷する。黒毛和牛などと比べて脂が少ないのが特徴で、赤身好きに人気の米国産と最も競合するとみられる。近年は産み分け技術の発達に伴い、乳牛として利益を見込める雌の子牛が増えた分、食肉用の雄は減って仕入れ価格が上昇。米国産との競争が激しくなれば、経営がさらに圧迫されるのは避けられない。

 38・5%の関税がかけられていた米国産牛は協定発効直後に26・6%に下がり、最終的に9%となる。農林水産省の試算では、二〇一六〜一八年に約八千三百億円だった肉牛の生産額は二百三十七億〜四百七十四億円減る見込み。協定で輸出する和牛の低関税枠は拡大されるが、岸上さんは「職人技が求められる和牛を手掛けようとしても失敗は目に見えている」と表情を曇らせた。

◆てこ入れ

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 政府は昨年末、協定発効に備えて三千億円超規模の農業対策をまとめた。一八年末に環太平洋連携協定(TPP)が発効され、昨年はカナダやニュージーランド産牛肉の輸入が急増。切れ目のない対策で、急速な市場開放に不安を持つ農家の理解を得たい考えだ。

 しかし、対策の中身は和牛の繁殖雌牛導入への奨励金など、もともと競争力がある分野へのてこ入れ策が中心だ。小規模農家に対する施設や機械の導入補助金などもあるが、岸上さんは「私たちのような農家にはあまり関係ないのでは」と、効果を疑問視する。あるJA関係者は「自動車を守るためのカードとして農業が差し出されたのでは」と指摘する。日本車への高関税をちらつかせてきたトランプ米大統領の圧力に日本政府が「屈した」との見方を示し、交渉過程を非難した。

◆生き残り

 政府への不満を募らせる農家がいる一方、豚肉を生産するマルミファーム(愛知県幸田町)の稲吉弘之会長(79)は「日本の農家は経営合理化を図り、コストを下げていかなければ生き残れない」と自助努力の必要性を訴える。

 トウモロコシなどの飼料を海外から輸入するため、日本で豚一頭を育てるための費用は米国の三倍とされる。同社では、中部地方の農家と共同で飼料を安く仕入れるほか、栄養を調えた独自のえさを食べさせて肉質を高める。繁殖用に海外の豚を使う工夫も重ねた結果、母豚は国内平均(約二十頭)を大きく上回る年間約三十頭を産むという。

 日米貿易協定で、高価格帯の米豚肉にかかる4・3%の関税は段階的にゼロになる。自ら経営効率化に努めてきたのも「常に五年、十年先を考えてきた」(稲吉さん)からで、競争力を重視する。

 養豚業が長年、経営安定制度など国の補助を受けてきたのも事実。公的な支援策そのものを否定するつもりはないが、稲吉さんは「安い海外産の輸入が増える流れは変わらない。いつまでも守られてばかりじゃいけない」と語った。

 (竹田弘毅)

 

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