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メメント・モリ

第8部「終を支える」 (4)派遣僧侶

報恩講を執り行う永勝寺の川北信紹住職(中央)=名古屋市南区で

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 わが家の菩提寺(ぼだいじ)が分からない。墓もなく、宗派も聞いたことがない。昨年十一月に父親を亡くした愛知県知立市の五十代の男性は途方に暮れた。「葬儀はどうしますか」と尋ねる看護師。男性は病院の片隅で、スマートフォンに「葬儀」と打ち込んで検索した。

 一番上に表示された葬儀仲介業者に電話した。「父が亡くなったんですが」。十分後に電話があり、近くの葬儀場と僧侶を手配したと伝えられた。

 参列者十人ほどの家族葬。派遣されてきた名古屋市南区にある永勝寺の川北信紹住職(52)がお経を上げた。控室では、初対面の遺族に葬儀の意味や仏教の教えをていねいに説いた。

 「死者を送り出すだけでなく、故人と向き合い、自分もやがて同じ道をたどることを学ぶのです」

 川北住職が仲介業者に登録したのは、その前月。勧誘を受け、「うちの寺の若い僧が経験を積む機会になる」と引き受けた。派遣先は一年で八十件を超え、「こんなに需要があるとは」と驚く。

 葬儀関連サイトを営む「鎌倉新書」が昨年、葬儀形式の割合を調べたところ、家族葬は38%で二年前から7ポイント増えた。告別式だけの一日葬、告別式もせずに遺体を荼毘(だび)に付す直葬の合計は一割近くを占めた。

 葬儀の簡素化が進むなか、僧侶の派遣は瞬く間に広がった。布施の金額を明示したわかりやすさと、インターネットで頼める手軽さが特徴だ。

 名古屋駅近くに事務所を構える葬儀仲介業者「プロ」。布施は通夜、葬儀の読経に戒名が付いて十二万円と設定。古田治社長(62)は「これまでの相場の半額以下」と話す。一年間に手配する葬儀と法要は四千件近く。僧侶を登録する寺院は全国で約七百件を数える。

 東京で単身生活を始めて十年になる男性僧侶(43)もその一人。実家は関西で六百年以上続く古刹(こさつ)だが、過疎化などで檀家(だんか)は四十戸を下回る。「もう檀家頼みでは寺を守れない」。住宅街にある古いビルの一室を拠点に、仲介業者からの依頼を年に百件ほどこなす。

 仏教界からの批判は根強い。二〇一六年には、ネット通販大手アマゾンに出品された僧侶を派遣する「お坊さん便」を巡り、全日本仏教会が反発。「宗教行為は商品ではない」と販売中止を求めたこともあった。

 寺離れが進み、葬儀はネットで注文する時代。永勝寺の川北住職は「むしろ、新たな縁を結ぶチャンスだ」とみる。

 一年前に父親を亡くした知立市の男性も、そうだった。葬儀を契機に仏壇の購入や法事の相談をするようになった。先月には永勝寺で法要を営み、父親の遺骨を納めた。「一区切りついた。手探りだったが、正解だったかな」

 年に一度、十月に親鸞聖人の遺徳をたたえる報恩講には百五十人以上が参列。代々の門徒に交じり、初めて顔を見せた人たちの姿もあった。

 他者の死を悼む機会が減りつつあるなかで、川北住職は考える。「死が遠ざかっているからこそ、葬儀や法要が持つ意味はより大きくなっている」

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞 社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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