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メメント・モリ

第8部「終を支える」 (2)介護職員

看取りの経験をした後、入所者の女性に笑顔で寄り添う山口龍馬さん=岐阜県土岐市で

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 脈を取ろうと手を伸ばした女性=当時(89)=の首元はひやりとしていた。岐阜県土岐市のケアハウス「ドリーム陶都」。介護職員の山口龍馬(たつま)さん(22)は、初めて人の死に直面した。二〇一六年の夏、夜勤で巡回した時のことだ。

 ベッドで横たわる女性は、眠っているように見えた。リーダーに連絡し、医師の到着を待つ間に何度も確かめた。「三十分前は脈があったのに…」。就職して一年余り、世話をしてきた女性が死亡したという現実をのみ込めなかった。

 その年の五月、女性は末期の大腸がんと診断されていた。医師は「体力的に厳しい」と手術を勧めなかった。認知症だった女性に代わり、告知を受けた長男(68)は「ここで看取(みと)ってほしい」と申し出た。

 看取りを前提とした介護。施設では、〇四年の開設以来、実績がなかった。介護職員の多くは二十代。山口さんも「死と向き合うのは怖い」と感じつつ、最期まで世話をできるのはいいことだと覚悟を決めた。

 だが、認知症の女性とのやりとりには戸惑った。女性は時折、苦しげな様子を見せたが、症状を聞くと黙り込んだ。アイスクリームやプリンを二口、三口と食べることもあれば、別の日には「嫌だ」と拒んだ。

 悩んでいるうちに、別れの日がきた。「亡くなった時の姿が目に焼き付き、眠っている入所者が息をしていないように見えた」。動揺は一カ月近く続いた。

 介護施設で迎える最期は、国が推進する在宅での看取りに位置づけられる。だが担い手となる職員は「賃金が低く、身体的にも精神的にもきつい」といわれ、短期間でやめる人が多い。

 公益財団法人介護労働安定センターの昨年度の調査では、離職者の勤続年数は「一年未満」が38・8%、「一年以上三年未満」が26・4%に上った。厚生労働省の推計によると、すべての団塊世代が七十五歳以上となる二五年度に介護職員が三十四万人も不足する恐れがある。

 山口さんも「何度もやめようと思った」。朝の体操に始まり、食事とトイレ、入浴の介助に追われる一日。「目の前のことをこなすのに精いっぱいだった」。一緒に就職した男性は音を上げて、職場を去った。

 看取りを経験した山口さんには「会話が浅く、好きなことをさせてあげられなかった」との悔いがある。だから、今は「もっとていねいに話を聞こう」と心がける。そうすると、入所者の違う姿が見えてきた。

 病気がちの女性は「こう見えても段ボール工場で働いていたのよ」と思い出話をしてくれた。「音楽を教えていた」という認知症の男性をピアノの前に連れていくと、唱歌を暗譜で奏でてみせた。「その人の人生に、少しだけ近づけた気がした」

 介護の仕事に就いて迎えた、四度目の秋。車いすの女性(96)に手を添え、笑顔で話す山口さんの姿があった。「今はこの仕事が好きだと素直に言える」。介護福祉士の資格を意識し始めた若者の横顔は、二年前より大人びて見える。

 連載にご意見をお寄せください。〒460 8511(住所不要)中日新聞 社会部「メメント・モリ」取材班 ファクス052(201)4331、Eメールshakai@chunichi.co.jp

 

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