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教育

<なぜ今?非認知能力> (中)動きだす学校現場

オリンピックについて考える総合的な学習の時間で、発言者に注目する児童たち=名古屋市熱田区の大宝小で

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 二〇二〇年度から小中学校で順次始まる新学習指導要領には、非認知能力が、目指す資質・能力の三本柱の一つ「学びに向かう力、人間性等」として表現されている。学校現場ではすでに、教育目標として捉え直し子どもたちに伝えたり、地域とのかかわりの中で高めようとしたりするところもある。

 昨年十一月、名古屋市大宝小五年一組のオリンピックをテーマにした総合的な学習の時間。「出場選手数を制限すべきか否か」を論点に、児童たちは班ごとに熱い議論を交わしていた。

 他の児童が話しているときは体を相手に向け、何度もうなずく。全体討論に移っても同じ。なぜならこの日の授業で育てたい態度、すなわち非認知能力は「考えをよく聞く」。授業の最初に全員で確認し、児童はそれを意識しながら臨む。話を聞く姿勢や発言のルール、めあての共有に始まり、振り返りで終わる授業の進め方にいたるまで全校統一の「大宝メソッド」だ。

 一方、二組では「オリンピック選手の行動から自分の行動を見つめ、自分がやるべきことについて考えよう」がめあて。最後の振り返りでは、大事にしたい非認知能力は何なのかを、各自で考えた。

 同小では新学習指導要領をにらみ、二十一世紀に求められる資質や能力について考え、二〇一七年に「大宝七つの力と八つの態度」=図=と定義。東京学芸大次世代教育研究推進機構(東京都小金井市)の研究を参考に、「やり抜く」「つまずいても切りかえる」などと、非認知能力を意識して具体化した。

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 青木一起校長(59)は一四年に赴任した当初、「いい子たち。ただ、自分の意見を述べる力や表現力が足りないのでは」と感じたという。「児童の力を引き出し、学力を上げられないか」と考え、日々の生活や社会に出てからも役立つ言葉の力を育てようと国語を教育の中核に据えた。七つの力と八つの態度は、言葉の力をはじめ学校で学んだ知識や技能を生かす土台に位置付け、各教員の裁量に委ねながら単元の指導に生かす。

 この間、単純比較はできないが、全国学力テストで平均より低かった結果が10ポイント以上上昇し、平均を上回った。今年三月に退職を迎える青木校長は「学力と同時に、社会で自分の目標を達成するには非認知能力が必要だと身をもって感じる」と話す。

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 全域の小学校がコミュニティスクール(CS)として活動する岐阜市。CSとは教職員と地域住民らが連携して学校を運営する仕組み。市の最初のCS、岐阜小では、地域住民が企画段階から関わる年一回のお祭りがあり、読み聞かせや町の歴史を語る外部講師などとしても住民が学校に頻繁に出入りし、児童を見守る体制ができている。

 昨年末、市内で開かれたプログラミングのコンテストに向けた校内審査にもCSのメンバーが加わった。部活部門の代表に決まったのは、年間約千人が訪れる岐阜小で「よりよい社会をつくる」をテーマにした六年生のチーム。「児童が身近なニュースを知り、学校の自慢を共有できれば、来校者とつながれるのではないか」という六年生のアイデアを、ソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」に組み込んだ。

 松枝秀空君は「途中でプログラムが消えてしまうトラブルもあったけど、そこから新しいアイデアが生まれた。諦めずにやり抜くことができてよかった」と満足げ。一部始終を見守った、学校運営協議会会長で呉服店経営の青山朋宏さん(50)は「主体的に取り組む子どもたちは生き生きしていた」と振り返り、「学校とは違った形で子どもたちの人生に影響を与えられる」と意義を話す。

 CSの調査研究に携わる岐阜大大学院教育学研究科の吉沢寛之准教授(47)によると、市内の三千六百人を対象にした調査から、住民同士の信頼関係があり、子どもへのかかわりが強い地域で育つ子どもは、地域への愛着が培われ、自制心や共感力といった非認知能力も高い傾向にある。吉沢准教授は「地域に受け入れられ、居場所があると安心することで自制心が育まれる」と説明する。

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 次回二十日は、非認知能力を把握する試みを報告します。

 (福沢英里)

木村治生さん

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◆識者に聞く ベネッセ教育総研・主席研究員 木村治生さん

 日本の学校教育のいいところは、非認知能力を高めるための仕組みや教員のメンタリティーが色濃く存在することです。学習指導はもちろん、学級経営の中で仲間づくりを重視する文化があります。

 国の教育改革は、社会の変化への対応だけでなく、理想的な教育の実現という側面があると考えます。戦後の教育政策に影響を与えた二つの考え方、「系統主義」と「経験主義」の双方の利点を生かし融合させようという戦後最大のチャレンジといっていいでしょう。

 系統主義的な教育とは、学問の系統性を重んじて知識や技能を積み上げることを大切にする。経験主義は体験的に学ぶ課題解決型の学習を重視します。前者が優勢になると、知識の詰め込みで、実社会で役に立たないと批判され、ゆとり教育につながりました。一方、後者は活動ありきで学力が身に付かないとの批判も。両主義の間を揺れ動きながら変化してきたのが日本の学校教育なのです。

 「社会が変化するから知識や技能に偏らない多様な資質・能力が必要だ」と言われます。私はむしろ、そういう能力を身に付けるのは「自分たちが望ましい社会を創造し、新しい価値を生み出す上で必要なんだ」と未来志向でとらえています。学校は、新しい価値を創造することを練習し、失敗から学ぶ場として機能できればいいですね。

 学びが変われば指導も変えねばなりません。アクティブラーニングを実現できる教員のスキルをどう高めるのか、具体的な方法論の開発はこれからでしょう。教員の多忙化が言われる中、授業時間数や教員数といった資源をきちんと配分することも大切です。

 <きむら・はるお> 2000年、ベネッセコーポレーション入社後、義務教育を中心に子どもや保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究などを担当。文部科学省や経済産業省などから委託を受けた調査研究にも携わる。専門は社会調査、教育社会学。

 

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