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教育

<ともに歩む 中日教育賞50回> (下)種をまき続ける 

友達に書いてもらった「いいところ」を見せ合う児童=石川県小松市の串小で

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 今年五十回目を迎える中日教育賞は、日本の教育の課題の一つ、子どもたちの自己肯定感を高める教育者にも光を当ててきた。受賞後、立場を変えても歩みを止めず、課題と向き合い続ける人もいる。

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 二日、石川県小松市串小学校の二年一組では、児童たちがお互いの「いいところ」を探し、付箋に書いて伝えていた。「優しい。いっぱい助けてくれるから」「我慢強い。なぜかというと、分からない問題も一生懸命やっているから」「算数で自分の意見を言えている。僕も意見を言える人になりたい」。子どもたちは友達からもらった付箋を紙に貼り付けた。「宝物ファイル」と名付けたファイルの冊子に入れるためだ。ファイルには、友達、保護者、自分、教師…さまざまな人から見た「長所」が詰まっている。本人も気付かない美点が伝えられることも。「子どもたちが、いい自信を持つようになった。表情が生き生きとして、学校の雰囲気が良くなった」と川場慶二校長(59)は導入から二年半を振り返る。

 ファイルを使って、子どもと関わり、自己肯定感を育む指導法は福井県鯖江市の岩堀美雪さん(58)が開発した。同市の立待小学校教諭として二〇一一年(第四十三回)に、約十年にわたる実践が評価され、中日教育賞を受賞した。

 「テストだけで測りきれない良さが、どの子にもある」。日々、子どもたちと向き合い、感じてきたことだ。中学、高校と学校生活の中で、本来の姿を失っていく教え子たちを見て、自分の接し方に問題はなかったのかと自問自答した。試行錯誤の末、ファイルを使った実践にたどり着いた。

 ファイルで自信を付け、積極的にクラスで役割を果たすようになった男子児童。娘が友達に書いてもらった「いいところ」を保護者が見て、娘の長所を知り、接し方を改めた結果、娘の反抗が収まった。けんかや暴言が飛び交う学級が徐々に、落ち着いていったことも。「自信がないから他人を攻撃する。自分を肯定的に捉えられれば、その必要もなくなる」と岩堀さん。

 効果を実感していたが、世に広げるには、科学的な根拠が必要になる。一五年には、教職を辞め、大阪大大学院連合小児発達学研究科に進学。ファイルを導入した小学校と、そうでない小学校で自己肯定感を比較する研究に取り組んだ。その結果、有意な差を示すデータが出てきた。

 岩堀さんが自身の取り組みを広めたいと願うのは、日本の子どもの自己肯定感が、諸外国より低いとされるからだ。国立青少年教育振興機構などの一四年度の調査では、日本、米国、中国、韓国の四カ国の高校生で「自分は、だめな人間だと思うことがある」と答えた割合は日本が72・5%で、他国の35・2〜56・4%より突出して高い。「自信をなくして、周囲への寛容さや積極性をなくしてしまう子は、たくさんいる。それを変えたい」

      ◇ 

 富山県高岡市国吉小学校の教頭だった一〇年(第四十二回)に、市民団体「大空へ飛べ」の活動で受賞した谷口徹さん(61)も、子どもたちの自己肯定感を高めるため奔走してきた。団体は十月にNPO法人化。谷口さんは理事長を務める。

 団体には、市内外の二歳から八十代までの約百四十人が参加。東日本大震災などの被災地への出前コンサートのほか、合唱やミュージカルを定期的に披露している。障害のあるメンバーも多い。皆の強みが引き出せるように舞台構成も工夫する。歌やミュージカルを生き生きと披露する姿が観客の心を打つ。「『感動した』『ありがとう』と言われて、子どもたちが表現する喜びを知り、自信を付けていく」と谷口さん。

 ただ、家庭の事情で参加できない子もいる。そんな子たちも気に掛けてきた。経済困窮世帯の子のため学習支援や不登校気味の子のための居場所づくりも、団体として六月から同県小矢部市で始めた。「子どもたちに『応援している人がいる』『一人じゃないよ』というメッセージを伝えたい。少しでも自信を持ってもらえたら」と谷口さん。未来に向けて、種をまき続ける。

 (佐橋大)

 =終わり

 

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