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学校のもめ事解決へ 教育メディエーター、愛教大で養成中

紛争の場面にメディエーターがかかわるとどうなるのかを学ぶ学生たち=愛知県刈谷市の愛知教育大で

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 教育現場でのもめ事に中立的に介入し、解決を促す専門家「教育メディエーター」の養成が、愛知教育大で始まっている。学んでいるのは、学校の事務職員などを目指す学生たち。国家資格ではなく、制度化もされていないが、卒業後には、学校をめぐるトラブルの当事者同士の関係修復や紛争解決を促す役割を期待されている。

 「この前、貸したジャケット、返してくれない?」

 「えー、あれ、くれたって言ったでしょ!」

 「そんなこと、言ってないよ!」

 愛知県刈谷市の愛知教育大で九月上旬に始まった講座「学校コンフリクト演習」。衣服の貸し借りでもめる友人を演じる二人と、それを見る学生。演じているのは、メディエーターを養成する一般社団法人「メディエーターズ」の安藤信明さんと田中圭子さん=ともに代表理事。紛争当事者の気持ちなどを理解してもらうのが狙いだ。

 「言った」「言わない」「うそつき」「金払えよ」「うそつきだと言い触らすぞ」。不信感や憎しみが募り、言葉は、どんどん激しくなる。学生も二人一組で同じ場面を演じた。学生たちの感想は「実際に、どう言ったのかを冷静に考えるより、『私は悪くない』という思いが勝ってしまった」「嫌な気持ちになった。この状況が早く終わらないかと思った」。傷つきながらも、引くに引けない当事者の立場を実感した。

 次に、お金の貸し借りでもめている二人の間に入るメディエーターを、法人の二人が実演した。貸した人がカッとなりそうなところで、それまでの話を整理するなどして、お互いが冷静に考える環境を整えた。貸した側が、借り手の苦境を理解し、分割返済で話がまとまった。

 演じた学生は「ヒートアップせずに済む」と、メディエーターの役割を実感。他の学生は「メディエーターの役割を果たすのは難しいと感じたが、興味がさらにわいた」「イメージが具体的になった」と話した。

      ◇

 メディエーターは、紛争の当事者同士の対話や認識のずれの修正を促し、合意につなげる専門家。メディエーターが関わる対話「メディエーション」は、当事者双方が納得のいく解決を目指すので、感情的な対立が残りにくいとされる。医療の現場などでも用いられ、欧米で盛ん。米国では、特別支援教育の分野で、紛争解決の手段として法的に位置付けられている。

 昨年度まで愛教大の教育ガバナンスコース代表として、教育メディエーターの養成に道筋を付けた松原信継・清泉女学院大教授は「米国でも近年、教育分野での訴訟は子どもの最善の利益にはならないと強く認識されている。カリフォルニア州では、教育紛争の九割がメディエーションで解決されている」と説明する。

 愛教大では、日本でも学校でのトラブルの解決にメディエーターが必要と考え、昨年四月に学校の事務職員養成のために新設した「教育ガバナンスコース」で関連の講座を設けた。学生は、「教育メディエーター演習」など所定の講座を受け、認定試験に合格すれば、大学独自の資格「教育メディエーター」を取得できる。同コースの二年生七十人のうち五十二人が必要な講座を受けている。

 ただ、医療などの分野と違って、教育分野でのメディエーターはまだ日本におらず、どう活動するのか今の時点では定まっていない。松原教授は「メディエーターの技能を持つ卒業生が、学校や教育委員会の職員として働きながら、求めに応じて紛争の現場に出向き、中立的に役割を果たすことが考えられる」という。

 学校のトラブルへの対応としては、弁護士が学校から相談を受け、保護者への対応などについて法的な助言などをする「スクールロイヤー」の仕組みが一部の自治体で動き始めている。松原教授は「スクールロイヤーは、紛争がこじれる前の段階で、法的な視点で状況を整理し、深刻化を防ぐのが目的。メディエーターは、関係者がボタンを掛け違えた段階で活動する。役割が異なり、子どもたちの利益のために両方が必要だ」と指摘する。

 (佐橋大)

 

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