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高校生・大学生

<あの頃> 漫画家 大橋裕之さん

大橋裕之さん=愛知県蒲郡市で(撮影・吉岡広喜)

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 著名人が、まだ何者でもなかった時代を振り返る「あの頃」。今回は、特徴的な絵柄と奇抜な物語で読者の心をつかむ漫画家の大橋裕之さん(39)です。高校卒業後、周りにはプロボクサーになると宣言しながらも、心引かれたのは漫画の世界。世間に認められず、悶々(もんもん)として過ごした日々もありましたが、ペンを投げ出さずに描き続けたことが今につながりました。

     ◇     ◇

−どんな子どもでしたか。

 将来の夢は本屋。当時は店員が漫画を描いていると信じ、本屋に行っては、漫画雑誌のひもを勝手に解いて立ち読みしていました。

 保育園の時から絵を描くのが好きで、「キン肉マン」などの人気漫画をまねしたり、三つ上の兄と落書き帳に一緒に描いたりしていました。小学校低学年のころは、漫画を描いては友達に見せていました。

−作品には、超能力研究部に所属する女子三人組など、変わった高校生が多く登場します。どんな高校生活を過ごしましたか。

 実は女子と話すのが苦手で、男子の多い愛知県立三谷水産高校に進学しました。新聞配達のバイトをしていたので、明け方まで友達と遊んでから、午前五時ごろに新聞を配りにいく毎日。学校では寝るか、ノートに落書きするか。勉強もできず、テストでは答案用紙の裏に先生の似顔絵を描いて点数を稼いだこともありました。

 時間があれば、妄想です。宇宙の果てや本棚の裏側に潜む謎の生き物に想像を膨らませました。付き合ったことも、ふられたこともないのに、自転車のチェーンが外れた他校の女の子を助けて仲良くなり、失恋するという物語を考えたこともありました。その頃の妄想が今、生きています。

−卒業後、プロボクサーを目指します。

 高校三年の時、格闘技が好きだったので、「プロボクサーになる」と両親や先生に言ってしまいました。進路指導の先生には「漫画の読み過ぎじゃないか」と言われました。

 卒業して、実際にボクシングジムに通うために県内で一人暮らしを始めました。でも本当は漫画を描きたい気持ちの方が強かった。仕送りをしてくれる親には言わずに漫画を描いて、賞に応募していました。

−周りに打ち明けたのは。

 落選が続き、面白くない漫画が賞を取っているのを見て、一人で腹を立てていました。審査員は見る目がないと。同時に「自分が面白いだけで、本当はつまらないんじゃないか」と不安にもなりました。

大橋さんの漫画「シティライツ」の一こま(c)大橋裕之

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 自分の絵についても、考えました。今では自分の代名詞にもなっている目の輪郭が交差している描き方に行き着いたのも、この頃です。

 賞に落ちるのが悔しくて、今まで見てきたものをネタにしようと、全力でギャグの四こま漫画を描きました。第二十七回ヤングマガジンGAG大賞に応募したら、佳作に選ばれました。この時、親に「漫画を描いている」と話しました。

 受賞を境に、漫画雑誌の編集者に下書きを見てもらうようになったのですが、ダメ出しばかり。悩みましたが、やっぱり自分の描きたいものを描いていこうと思い、編集者に見てもらうのをやめました。

 十九歳で実家に戻り、競艇場で仕事をしながら漫画を描き続けました。何年たっても日の目を見ないので、自費出版で百ページぐらいの雑誌「謎漫画作品集」を三百部作りました。

 インターネットで宣伝し、東京や京都、大阪の店にも置いてもらいました。すると、「楽しみに読んでます」と感想が届くようになった。リアルな読者の存在に後押しされ「好きなことに懸けてみよう」と東京に行くことを決めました。二十六歳の時でした。

 とにかく、読んでもらいたい思いが強かった。上京後も自費出版で漫画を発行しました。月一回なのに「週刊オオハシ」。常に持ち歩いて配りまくり、飲み会で知り合った編集者に漫画を見せたことが縁で、月刊誌「モーニング・ツー」の連載が決まりました。

−不安もある中で意志を貫きました。

 やっと稼げるようになったのが三十歳ぐらいの時。病気にかかっていた母は喜んでくれました。芸人にも憧れましたが、漫画が一番、自分の考えたものを出しやすい。落書きばかりしていた日々も、高校時代の妄想も、認められずに悶々と過ごした時期も、すべてが作品につながっています。

 (大沢悠)

高校時代の大橋さん(左から2番目)。竹島が見える海の周辺や蒲郡市博物館が遊び場だった=愛知県蒲郡市で

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◆Profile

 <おおはし・ひろゆき> 1980年、愛知県蒲郡市生まれ。代表作品は「ゾッキA」「シティライツ」などのほか、18〜19歳の同県豊明市での日々を描いた「遠浅の部屋」がある。2005年から漫画を自費出版し、漫画家としての本格的な活動を始める。紙芝居や映画の撮影なども行う。自費出版した漫画「音楽」が長編アニメーション映画として来年1月から全国で順次公開される。ミュージシャンの坂本慎太郎さんらが声を担当する。名古屋市はシネマスコーレで上映予定。

 

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