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滋賀・呼吸器事件 再審確定

西山美香さんの手紙・供述弱者を守れ 25人目の裁判官(3) 秦融(編集委員)

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 足利事件(一九九〇年)で、二〇〇九年のDNA再鑑定により、無実が証明された菅家利和さんの弁護人の佐藤博史弁護士(69)は、その著書「訊問(じんもん)の罠(わな)」で「最大の責任を負うべき者が合計十五名(地裁三、高裁三、最高裁五+一、再審・地裁三)の裁判官であることは言うまでもありません」と指摘している。

 その一方で、「最高裁五+一」の「+一」にあたり、最高裁判事を助言する立場にあった当時の後藤真理子調査官(現東京高裁部総括判事)について「人柄的にも信頼のおける裁判官」と高く評価する。矛盾する評価の背景には何があるのか。

◆再審開始に「人柄」

 菅家さんにさらなる投獄を強いる結果になった最高裁の上告棄却(〇〇年)から三年後、後藤調査官はDNA鑑定について「科学的妥当性に疑問を挟む余地はない」と断定する最高裁判例解説を発表したが、実は、その二年後、新たな論文で初期のDNA鑑定の危険性に警鐘を鳴らし、軌道修正を図っていた。佐藤さんが、呼吸器事件での後藤裁判長の再審開始決定に「人柄」を見るのは、過ちの可能性を自ら示し、可能な限りの手を打とうとしたように見えるその姿勢が、今回の決定に通じていると感じるからだ。

 新たな論文は〇五年、佐藤さんが菅家さんの冤罪(えんざい)を晴らすため、宇都宮地裁で再審請求審を争っている、その渦中に発表された。

 「DNA型鑑定は、その初期において『究極の鑑定』として決定的な証拠であるかのような誤解を与えていた可能性がある」

 DNA型鑑定は、足利事件が、証拠能力が争われ判断が示された初の事例であり「その初期において」が同事件の鑑定を指しているのは間違いない。論文では、さらに「その鑑定には問題点を内在するものも少なくなく、その証明力にはおのずと制約があった」「現在の水準に比べれば、その解析度が低いことは否めない」と証拠能力を疑問視する指摘が繰り返された。

 当初「疑問を挟む余地はない」と断定したはずの鑑定の証拠能力に疑問を示すかのような指摘を見て、佐藤さんは「びっくりした」という。佐藤さんがさらに驚いたのは、九〇年代初頭と〇五年時点での鑑定技術を比較検討し、最新技術での再鑑定を促すように読める以下の部分だった。

 「その技術が時代と共に格段の進歩を遂げた結果、DNA型鑑定の証拠価値は、現段階においては、少なくとも他の証拠資料との総合評価をすることにより、極めて有力な証拠の一つとなりうるという認識で確立されていると思われる」「DNA型鑑定は、現場試料から被疑者を特定することと同時に、被疑者でない者を捜査対象から除外するという側面も有していると評価できる」

 佐藤さんは、再審請求審の審理を担当する宇都宮地裁の裁判長にこの論文を示し、「当時の最高裁調査官だった後藤さんの論文は、再審請求審でDNA再鑑定を積極的に行うべきであるという明確なメッセージにほかならない」と口頭や書面で繰り返し、訴えたという。

 残念ながら論文発表から二年三カ月後の〇八年二月、再鑑定は見送られ、同地裁は訴えを棄却。無実の菅家さんの投獄は続いた。

 では、当初のDNA鑑定についての論調を変えた後藤裁判官は、菅家さんに冤罪の可能性を見ていたのだろうか。そうとも感じられないのは、菅家さんが任意聴取の段階で自白し、公判でも自白を重ねた経緯を念押しするように論文で示しているからだ。

 「事情聴取された初日に自白し、犯行の細部については一部否認するなどしながらも、犯行の基本的部分については一貫して自白していた」「一時否認したが、弁護人と接見した上で裁判所あてに自白を維持する内容の書面を提出し、その後の被告人質問でも再度自白していったんは弁論が終結されるに至った」

◆自白の見極め困難

 佐藤さんは「やりました、と自白すると裁判官でも、それだけで犯人と思ってしまう。大切なのは自白が細部にわたって真実であるかどうかを見極めることなのに、裁判官でもそのことを忘れがちになる」と裁判官が自白の信用性を見極める難しさを指摘する。

 任意の段階で菅家さんが認めたという「自白」が真実だとの思い込みを解くのは、どの裁判官にとっても簡単なことではなかった。それは、呼吸器事件の西山美香さん(38)が、逮捕前の「自白」を理由に、二十四人の裁判官に繰り返し「有罪」を突きつけられたのと、同じことでもある。

       ◇

 昨年十二月に大阪高裁が再審開始決定後、検察が特別抗告し、最高裁で審理が続く滋賀の呼吸器事件。二十四人の裁判官が見逃し続けた司法解剖鑑定書の誤りに、二十五人目の裁判官はなぜ気づき、どう再審への扉を開いたのか、検証する。

 

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