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舌はないけど

(35)憧れの先輩患者 新しい使命持ち生きる

 十六日に名古屋で開かれた日本歯科衛生学会の県民フォーラム「いのちと共に思うこと−頭頸(とうけい)部がんを経験して」で、お話する機会をいただきました。一緒に登壇されたのが、ずっと会いたかったあこがれの人。サッポロビール人事部の村本高史さんでした。

イベントで、尊敬する先輩患者・村本さん(右)とご一緒しました=名古屋市内で

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 村本さんは、四十代で食道がんを発症し、その治療で声帯を失った後、食道発声法の訓練に励みました。のどに当てた指を動かして食道を震わせ、声を出せるようになりました。教室に通って一カ月かけて「あ」の発声を覚え、次は「あめ」、その次は「あたま」と、ひたすら反復練習して、言葉を増やしていきました。

 「もうしゃべれない」と思っていた村本さんは、教室で年上の患者さんたちが、楽しそうにおしゃべりしている姿に驚き、懸命にリハビリに励んだそうです。私も、嚥下(えんげ)障害の「つばめの会」に初めて参加したときに、舌を切除した先輩患者さんたちが口から食べたり、話したりしている姿にびっくりして、頑張る動機になりました。よく似た体験をされているんだとうれしくなりました。

 その後、村本さんは人々に勇気や希望を与えることを、ご自身の使命に掲げ「いのちを伝える会」を主宰して、闘病体験を社員に語ったり、がん経験者が働きやすい職場づくりに努力されたり。「懸命に取り組めば、大抵のことは実現できる」という言葉に、大きな拍手がわき起こりました。

 私の話のテーマは「食べることは生きること」。嚥下障害になってから、食事は治療や義務のようで、苦痛でもあったけれど、社会復帰する中で仲間と一緒に食べる喜びを取り戻していったこと、口から食べるのは、「人間らしく生きる」という尊い行為だと気付いて「食のバリアフリー」を広めたいと活動していること、などを話しました。

 大会長の長縄弥生さんを交えたパネル討論で、私は「退院後を見据えた支援を、患者と一緒に考えてほしい」、村本さんは「リハビリの現場を実際に見て、知ってほしい」と、医療者にお願いしました。今は、医療者と患者が共に考え、意思決定をしていく時代です。社会の中で多くの患者たちが、新たな目的や使命感を持って生きている姿を、もっと理解してほしいと思うのです。(荒井里奈)

 

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