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舌はないけど

(28)「無理するなよ」 病気は勝ち負けじゃない

 患者同士のつながりが多いので、どうしても仲間の死と向き合うことがあります。別れはとてもさみしくて、ぼうぜんとするのですが、同時に「出会ってくれてありがとう」と感謝の気持ちがわき上がります。できることを精いっぱいやって、最期まで懸命に生きた姿を知っているからです。

入院中のIさんと思い出のツーショット=2015年10月、愛知県がんセンターで

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 二〇一五年秋。最初の手術で愛知県がんセンター中央病院に入院した時、抗がん剤治療で入院していた同郷のIさんとばったり会いました。父と同世代の友人で、私や母とも顔見知りの方でした。私にとって最初の「がん友達」になりました。

 胃がんのステージ4だったIさんは、体調がいい時は趣味のゴルフに出掛けたり、新薬の治験に参加して医療の発展に協力されたりと、とても前向きな方でした。いつも「がんになった者にしかわからないことがある」とおっしゃって、病室で励まし合いました。私が術後の症状やリハビリの説明をすると、いつも「無理するなよ」と言ってくださいました。

 翌年、私が退院し職場復帰して一カ月ほどたったときに、Iさんのご家族から体調が良くないと連絡があり、私は仕事を終えてから両親と一緒にお見舞いに行きました。私が手を握って「先月から、仕事に戻ったよ。今日も仕事してきたよ」と報告すると、もうろうとした意識の中、小さな声で「無理するなよ」と。

 二日後に仕事が休みだったので、またお見舞いに行くつもりでいたら、その日に訃報が届きました。お通夜に参列し、お顔を見て「一緒に闘病できて、私は楽しかったよ。ありがとう、またね」と声をかけました。

 重症の連絡をもらってすぐに会いに行き、お話しできたこと、それまでIさんが自分らしく生き切った姿を見ていたことで、悲しいけれど穏やかな気持ちで、見送ることができました。

 以後も、数人の仲間を見送りました。もし、死ぬということが、病気に負けることなら、現在の医療で完治が見込めない私は、既に負けが決定になってしまいます。そして、旅立っていった仲間たちも「負けた」ことになってしまいます。私は、だれも負けたなんて思っていません。病気は闘うものではなく付き合って行くもの。がんも私の細胞。勝負ではなく、死ぬまで一緒に生きていく。ただそれだけだと思うのです。(荒井里奈)

 

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