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遺伝性の血液疾患「血友病」 治療進歩でQOL向上

 生まれつき血が止まりにくい遺伝性の希少疾患「血友病」。血を止める働きをするタンパク質の不足が原因で、かつては命に関わる病気だったが、近年は治療法、薬剤ともに進歩。患者は健常者に近い生活を送れるようになっている。一方で女性は多くの場合、症状が出ないため、自身が病気の原因となる遺伝子変異を持つと気付いていないケースも。今月二十九日は、世界希少・難治性疾患の日。(植木創太)

スポーツも可能に

「鶴友会」の交流会で、最新の治療について話す鈴木伸明助教(右)=名古屋市昭和区の名古屋大病院で

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 血友病は血を止めるタンパク質「凝固因子」の一部が不足する疾患。出血が止まりにくいため、軽いけがが命に関わる恐れがある。

 国内の患者約六千人はほぼ男性。因子の働きが健常者の1%未満の人は重症、1〜5%未満が中等症、5%以上で軽症だ。患者の三割以上を占めるとされる重症の場合、立ったり座ったりの日常の動作でも関節や筋肉の中で出血が繰り返され、関節障害を引き起こす。

 東京都三鷹市のゲームプランナー、一九七二年生まれの鈴木幸一さん(47)は、生後十カ月で重症の血友病と診断された。関節障害が進行し肘が曲がりにくいという不便さはあるが、「医学の進歩を体感してきた」と自らの人生を振り返る。

 患者の大半が十代で亡くなっていた状況が変わったのは、人の血液からつくる血液製剤が開発された六〇年代後半。出血時や、運動前など出血の可能性があるときに注射し、足りない凝固因子を補う治療法が確立した。日本では八三年に病院外での自己注射が保険適用に。小学生だった鈴木さんは、週四日の通院が減り、友達と遊ぶ時間が増えたのがうれしかったという。

 二〇一〇年ごろからは、製剤を週に数回注射し、因子の働きを一定以上に保つ「定期補充療法」が急速に広がった。血友病と診断された時点で始められ、関節の変形のリスクを抑えられるように。現在は重症患者の八〜九割が受けている。週三回の定期補充療法を続ける鈴木さんは「できることがどんどん増え、人生が楽しい」と笑顔を見せる。

 日本を含め世界では八〇年代、加熱処理を施していない血液製剤が流通し、血友病患者がエイズウイルス(HIV)に感染。多数の死者が出て問題になった。しかし、血友病治療を研究する東京医科大の天野景裕教授(55)は、加熱製剤が登場したことなどから「現在は安全に治療できている」と説明する。高額療養費支給制度などを使えば、患者の自己負担はない。

 昨秋、愛知県の患者団体「鶴友会」などが名古屋大病院(名古屋市昭和区)で開いた交流会。約七十人が参加し、サッカーや野球などのスポーツを楽しんでいるという患者の声が披露された。息子が血友病と診断されたばかりの男性会社員(32)は「いろんな体験をさせてあげられると分かり、少し安心した」と話した。治療は進歩を続け、国内では一八年、従来の静脈注射でなく、患者の負担が少ない皮下注射で使える治療薬「エミシズマブ」が認可された。さらに、足りない凝固因子をつくらせる遺伝子を組み込む遺伝子治療も臨床試験が始まった。

 団体の運営にも携わる同大病院輸血部の鈴木伸明助教(45)は「患者のQOL(生活の質)は年々上がっている」と評価。ただ、さまざまなリスクが消えたわけではないとして、「仕事を選んだりスポーツを始めたりする際は専門医とよく話し合って」と訴える。

保因 気付きにくい女性

出産時に出血リスク

 人間は、二種類ある性染色体の組み合わせがXYだと男性、XXだと女性になる。ほとんどの血友病は先天的なもので、Xに変異が起きて発症する。男性はX染色体が一つしかないため、異常が生じると凝固因子をつくることができず発症する。半面、Xを二つ持つ女性は、一方のXに異常があっても、一方が正常なら症状は出ず、自分が遺伝子変異を持つ「保因者」であると気付いていない人は少なくない。

 天野教授によると、注意すべきなのは保因者が出産する場合だ。母子ともに出血のリスクがある。特に、血友病患者である可能性がある胎児は、一般的な経膣(けいちつ)分娩や、金属などで頭を引っ張る吸引・鉗子(かんし)分娩をすると頭蓋内出血の危険が高まる。妊婦が保因者であると分かっていれば、帝王切開など事前に出血への対策ができる。天野教授は「親族に患者がいるなど保因の可能性がある人は、出産前に伝えてほしい」と話す。

 

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