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【病院再編を問う】地域医療見直し 進め方は 識者に聞く(下)

 再編・統合の検討が必要として、厚生労働省が全国424の公立・公的病院を名指しして3カ月余が過ぎた。国と自治体の対立が激しさを増す一方、市民の関心はそれほど高くない。今回は、医療者と市民を近づけようと活動するNPO法人COMLの山口育子理事長と、将来の需要に合わせて医療体制を見直す「地域医療構想」に詳しいニッセイ基礎研究所の三原岳主任研究員に聞いた。 (地域医療取材班)

関心高める工夫を 山口育子さん

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 不安がっているのは名指しされた病院と自治体だけで、患者には情報が浸透していないのでは。医療に関わるさまざまな電話相談を年間千五百件ほど受けているが、この問題に関する相談は全くない。

 地域医療の見直しは自分の住む地域をどうしていくかという問題。人ごとではないはずだが、市民の医療への関心は、自分や家族の病気は治るか、どこに良い医者がいるかなどの個人的なことが主だ。

 厚労省が掲げる再編・統合は、病院間の機能分化も含む。今でさえ、急性期、回復期など病床の機能分化は進んでおり、昔のように一カ所で全てを診てもらうことはできない。急性期の入院のめどは約二週間だが、「短期間で追い出された」などと不満が出るのは、こうした仕組みを分かっていないからだ。

 団塊世代が全員七十五歳以上になる二〇二五年以降も高齢者は増え続ける一方、保険料や税金を払う若い人は減る。医師の数は地域で偏りがある上、働き方改革で労働時間も制限される。こうした中、安心して医療を受けられる体制を維持するには、住民も我慢をしないといけない部分が出てくる。だからこそ、再編・統合は行政と医療機関だけでなく、住民の理解を得た上で進めることが必要だ。

 都道府県ごとに地域医療構想を定めるに当たり、その指針をまとめる検討会で委員を務めた。完成した指針は「(都道府県は)患者・住民の意見を聴く必要がある」と明言している。しかし、構想策定前に住民の声を直接聴く機会を何度も設けた−といった例は耳に入ってこなかった。住民の関心を高めるには、広報紙やインターネットなどさまざまな手段で、地域医療の現状と、高齢者がどれほど増えるのかといった将来像を発信していくことが大事だ。

 がんと診断されたら? 脳卒中でまひが起きたら? その時に備えて考えたり調べたりはできる。自分に合うリハビリ施設を見学してもいい。そうやって働き掛けると、今の医療が見えてくる。現状を知った上で、どんな医療、介護体制を必要とするのか意見を表明していくことが大切。そうでないと、地域医療が住民の望む姿とは異なる形になってしまう可能性がある。

【やまぐち・いくこ】 大阪教育大卒。卵巣がん発症を機に認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)に関わり、2011年から理事長。患者目線の病院評価や、医学生向けの模擬面接に取り組む。国など多数の審議会で委員を務める。54歳。

自治体主体で動け 三原岳さん

 地域医療構想には、国全体の医療費抑制を見込んでの過剰な病床削減と、在宅医療も含めた切れ目のない医療体制の構築−という二つの目的が混在している。議論が混乱する原因だが、両方とも必要だ。

 病院名公表後、多くの都道府県知事が「地域の事情が考慮されていない」と述べた。診療実績などを基に機械的に判断されたことを考えると、その気持ちは分かるが、地域医療構想は都道府県が策定したもの。再編・統合に消極的な姿勢は、資料や議事録の開示状況にも表れている。

 構想実現に向け、病院関係者と自治体が参加して各区域で開かれた調整会議の議事録を公開しているのは六割にとどまる。構想に関わりがあるのは、医療機関や自治体だけではない。医師会や住民、介護や福祉の関係者ら多岐にわたる。幅広い関係者の合意形成には、丁寧な情報開示が欠かせないはずだ。

 地域の事情を今後の医療体制に反映できるのは、住民に近い都道府県と市町村だ。それなのに「目的は分かるが、病院が消えるのは困る」と構想を進めずにいると、国の締め付けが強まる可能性がある。名前の公表はその一環だし、国が直接出向いて助言や支援をする「重点支援区域」を設定する意向も示している。

 高齢化に伴う在宅医療需要の増加を見込み、患者のかかりつけ医らを支援する「地域密着型協力病院」を指定した和歌山県など、独自の施策を打ち出す自治体が出てきたのは構想策定の成果。病院の存廃の是非だけに目を向けると地域が分断され、まともな議論ができなくなる。「どの機能を他の病院と分担するのか」といった合意形成を積み上げていくしかない。

 国は医療費抑制の議論に傾きがちだ。だからこそ、現場を預かる自治体は、切れ目のない医療体制をつくるには何が必要かを重視しないといけない。具体的には「病床を減らしても住民の暮らしは守れる」と説明できる施策が必要。在宅医療や医療と介護の連携、病気の予防や健康づくりの強化などだ。二つの目的のバランスを取るのは難しいが、両立はできる。

 【みはら・たかし】専門は医療・介護・福祉政策。時事通信社記者、東京財団研究員を経て、2017年にニッセイ基礎研究所へ。19年から主任研究員。地域医療構想が制度化された過程や都道府県の取り組み状況について研究、リポートを公表している。46歳。

【機能ごとの病床数の現状と将来の必要量】地域医療構想では2025年に必要な病床数を国全体で119万床と推計。高齢社会の到来で、リハビリを必要とする人が大幅に増えると見込み、回復期病床を15年の13万床から37・5万床に増やすことを目標に掲げる。一方で、手術などが必要な患者向けの急性期は59・6万床から40・1万床まで減らすことを目指す。この数字に基づき、全国339区域で年4回、病院間の役割分担を話し合う調整会議を開いてきたが、議論は低調だった。

 

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