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【病院再編を問う】地域医療見直し 進め方は 識者に聞く(上)

 厚生労働省が昨年、「再編・統合の議論が必要」として公表した全国424の公立・公的病院のリスト。名指しされた病院を運営する自治体などは、9月末までに対応策を示すよう求められている。国と自治体の意見の隔たりは大きいが、人口減少が加速する中、地域の医療提供体制を見直すことは急務。どのように議論を進めるべきか、2回にわたって識者に聞く。 (地域医療取材班)

伊関友伸・城西大教授ー住民の声 聞き取りを

 国全体の医療費が膨れ上がる中で、病院再編や病床削減の議論が必要なのは分かるが、予告もなく病院名を公表したのは乱暴。地域住民に「この病院はなくなるのか」と不安を与えた。医師や看護師ら医療従事者が退職したり就職を渋ったりする事態も招きかねず、名指しされた病院の反発や怒りは当然だろう。

 都市部は複数の公立、公的病院が競合していることが多い。統合・再編で、医師や看護師らを拠点病院に集めるなど効率化を図ることは、医療の質を保つためにも必要。ただ、地方は違う。公立病院が地域唯一の医療機関である例は数え切れない。多くが街づくりの核、雇用の柱にもなっている。地域事情や課題を踏まえて議論する必要がある。

 今回のように診療実績を基に「下位33%」を再編・統合議論の対象とすれば、地方の中小病院が多く挙がるのは当然。人口の少なさに加え、交通が不便で地元の患者以外は利用しにくいからだ。積雪の多さや山間地であることなど、地域特有の事情も考慮されていない。客観的な単一の物差しで判断した点が間違いだ。

 地域医療構想は国の医療施策だが、公立病院の設置者は自治体。全国を三百三十九の区域に分けて開かれた調整会議で統合・再編の方向性が出ても、首長や議会が反対した途端に進まなくなる。調整会議には地方自治法上の権限がないからだ。首長や議員は、有権者である住民の不安が増す動きは取れない。

 解決すべきことが多い現状を考えると、九月までに結論を出すのは不可能だろう。地方分権の視点に立つならば、国が権力を行使して考えさせるのではなく、手を挙げてもらう方式がいい。各都道府県に対象を選んでもらい、国はその病院に財政面などで手厚い支援をする。再編や統合を考えている病院は多い。それをモデルケースに、次の統合・再編を進めるのがいい。

 現在の議論には、どんな医療を望んでいるのか、住民の意見を聞くというプロセスが足りない。住民を巻き込み、医療を守るという「共感」を地域に浸透させていくことが大切だ。

 いせき・ともとし 専門は行政学。埼玉県職員として県立病院課などに勤務した経験を持つ。2004年に研究に転じ、各地の公立病院改革に携わる。著書に「人口減少・地域消滅時代の自治体病院経営改革」(ぎょうせい)など。58歳。

印南一路・慶応大教授ーまちづくりの視点で

 人口減少や高齢化で医療の需要は変わる。一九七三年の老人医療費の無料化は病院の乱立と病床の過剰を招いた。そうした時代を経て、公立病院は数も病床数も徐々に減らした。努力は評価すべきだが、改革のスピードが遅すぎる。全国に今ある病床を年平均で見ると、二割は利用されていない。

 むしろ重視すべきは、過剰な急性期の病床を回復期に転換させること。既に、入院患者の半数は高齢者で複数の病気を抱える。急性期の医療は臓器別で、高齢患者を総合的に診る視点はあまりない。高齢者の場合は急性期を脱したら、回復期の病床に移り、複数の病気を持つ高齢者を診るのに慣れた医師にかかることが大事だ。病院名が公表されたことに都道府県知事ら首長が反発しているが、多くは有権者へのポーズだ。これぐらいしないと改革は進まず、住民の意識も変わらない。

 公立・公的病院は、産科や救急をはじめ、国や自治体が責任を持つべき政策医療を担う存在だ。赤字の補てんに税金が使われているのだから、投入された金額と、それに見合う政策医療が行われているかを公表することも必要だ。

 病院側は、看護師が多く必要な分、入院単価が高い急性期の病床を維持すれば収入が上がると思い込んでいる。しかし、利用されていない病床は返上し、経費を減らすことで得られる利益を重視すべきだ。地域で不足している医療を重点的に行うなど特色を出せば、医師も患者も集まる。

 病院があることが住民の安心につながるという意見もあるが、重要なのは必要な時に適切な医療を受けられるかどうか。病院がなくても、救急救命に対応できるようにするには、ドクターヘリや救急車を充実させることが大事だ。もう一つは、重大な病気の発見につながる日常医療。小児に比べて広まっていない成人の無料電話相談やオンライン診療を普及させたり、診察や検査を受けられるバスの巡回、訪問診療など方法はある。病院という「点」でなく、「面」で支える体制を考えないと。まちづくりとも関係するだけに首長の手腕が問われる。

 いんなみ・いちろ 専門は医療政策や意思決定論。医療経済研究機構研究部長も務める。東京大法学部卒業後、旧富士銀行入社。旧厚生省保険局に出向したのを機に研究を始める。2017年まで中央社会保険医療協議会(中医協)委員。61歳。

 【地域医療構想】団塊の世代が75歳以上になる2025年を目標に、必要となる病床数を推計して都道府県ごとに策定した構想。手術などが必要な患者向けの「急性期」の病床を減らし、リハビリ向けの「回復期」を増やすことを掲げる。国は地域医療構想を基に、公立・公的病院の再編・統合に関する議論を求めたが、全国339区域で開かれた調整会議では進展がなかった。そのため国は昨年9月、診療実績が乏しかったり、近くに類似した病院があったりする病院名の公表に踏み切った。

 

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